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開発が進む新型コロナワクチン 「政治的な理由」で第2波が迫るNYに届けられない?

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
たびたび確執が報じられる、NYクオモ知事とトランプ大統領。(写真は4月の様子)(写真:ロイター/アフロ)

COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の感染が今もなお拡大するアメリカで、トランプ大統領のある発言について、ニューヨークの人々が戸惑い、反発している。

その発言とは、着々と開発が進められている新型コロナのワクチンについて「認証されてもニューヨークに届くのは遅れるだろう」とする11月13日のトランプ大統領の記者会見の内容だ。

バイデン氏が大統領選で勝利を確実にして以来、初となったホワイトハウスでの対面記者会見でトランプ氏は、ワクチン開発の進捗状況と今後の流通について言及した。最終的な承認ができ次第すぐに国内で流通されるだろうと前置きしながらも、「政治的な理由」でニューヨーク州への流通は遅れることになると述べた。

その政治的な理由とは、トランプ氏曰く「ワクチンは世界中の素晴らしい(権威のある)ラボで開発されているのに、クオモ氏がホワイトハウスが発表している事実とワクチンの安全性を信用していないこと」があるという。

今後については「許可が得られるまでニューヨークには届けられず、心苦しい」「(知事の)準備ができたら我々に知らせなければならない」と、あくまでもクオモ氏の判断次第だと述べた。

これに対して、クオモ知事はMSNBCのインタビューを通じて、「トランプ氏の発言は事実ではなく、驚くばかりだ」と応戦。続けて「私は製薬会社を信じているが、承認をするトランプ氏と現政権を信じていないため、科学的根拠に基づき権威ある専門家による信憑性がはっきりするまで、ワクチンの使用を推奨できない」と述べた。

(クオモ氏は9月末、医療専門家チームによる「州のタスクフォース」を編成し、FDAに認可されたすべての種類のワクチンを州独自で検査する意向であることを発表している)

州司法長官のレティシア・ジェームズ氏も、「ワクチンが国内で認可されても州に届けられないというのは、レームダック(役立たず)の大統領による、反発者への報復措置以外の何ものでない」とし、訴える可能性も示唆した。

トランプ氏とクオモ氏は以前より敵対関係にある。今年ホワイトハウスで行なわれた両者の対面会議では、クオモ氏が「個人的な感情を政治の場に持ち込むべきではない」と冷静な対応をし、なんとか直接的な衝突は避けられてきた。しかし、トランプ氏はクオモ氏の新型コロナ対応、特に多くの感染者や死者を出しているナーシングホーム対応をたびたび批判している。またクオモ氏もこの4年間、トランプ氏による多くの政策に反発してきた。特に新型コロナ禍で、トランプ氏の州に対する財政援助やPPE(感染防止のための防護具)援助の遅れなどについて批判。最近では、トランプ氏がフロリダへ転居手続きをする以前のメインの居住地であったニューヨークでの脱税疑惑について、州の検察官が調査しているとも報じられている。

参照記事

ワクチンに関してはつい先月も、トランプ大統領とクオモ知事がやり合ったばかり。

トランプ氏は記者会見後のツイッターで、自らの生まれ故郷について「ニューヨークは愛している。我が政権でなければこれほど早く開発ができなかったであろうワクチンを人々は待ち望んでいるのに、問題はクオモ氏がワクチンを使用することに躊躇しているためだ」と名指しで批判した。

開発が進むワクチン

世界中で進められている新型コロナのワクチン開発だが、米ファイザーは11月9日、独ビオンテックと共同で開発したワクチンが、開発の終盤にあたる後期臨床試験で「90%超」の有効性が示されたと発表したばかりだった。

筆者の周りで冒頭のニュースについての反応を聞いてみると、トランプ政権下のワクチン開発の速度とその功績を讃え感謝するとしながらも、「ファイザー社の開発スピードと、現政権の功績はあまり関係がないかもしれない」という意見や、「クオモ氏はワクチン使用を躊躇しているのではなく、安全性を確認するためにさらなる検査が必要と言っているのではないか」などという意見が見られた。またたびたび衝突する2人に対して「どちらが良い悪いではなく、人の生死を左右する可能性のあるものに『政治的な理由』を持ち込むべきではない」とするリアクションが多い。

第2波の脅威が迫るNY

今もなお、新型コロナの感染が拡大しているアメリカでは、感染者数は累計で1081万人を、死者は24万人を超えている。1日当たりの新たな感染者数は15万人以上だ。

ニューヨーク州での感染件数は、累計で55万件を、死者は累計で3万3000人を超えている。

州内の1日の検査数は11月13日は18万4162件で、陽性判定は5388人(陽性率2.92%)。重症患者の入院者数は1788人。

このように感染爆発した3〜5月に比べ、初夏以降は感染を抑えられていたのだが、9月末あたりから再び感染が広がっており、第2波の脅威が押し寄せている。

感染接触者の追跡により、深夜のバーやレストラン、ジム内がクラスターの原因の1つになっていることが判明し、州では11月13日から、それらの店や施設の午後10時以降の夜間営業を禁止し、パーティーなどの私的な集まりは10人までに制限するなどの措置が取られたばかりだ。

このような状況で、ワクチンは特に高齢者や基礎疾患のある人なら喉から手が出るほど待ち望んでいるものだと思うが、これから長い冬を迎えるこの街は今後いったいどうなっていくのか。

(Text by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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