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バイデン支持者も「勝利はトランプ」と思うその理由 ── 激戦州ラストベルト有権者の声

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
大規模集会での有権者のイメージ写真(写真:ロイター/アフロ)

アメリカ大統領選において、激戦州がいかに重要かについては先日の記事に書いた。今回は現地に住む一般の有権者に、選挙直前の今の様子について聞いてみる。

本稿では中西部の「ミシガン州」に焦点を当てる。20世紀より自動車産業の街として栄え、文化的にはモータウンサウンドが誕生した土地柄だ。

ミシガン州の大統領選ポイント

  • 長年民主党が勝ち続けたが、4年前の選挙でトランプ氏が制した。
  • 今年も接戦の場で、勝利の鍵を握る地域。
  • ほかの激戦州より、白人労働者階級(トランプの主な支持者層)の割合が高い。
  • 旧工業地帯や農村部からより多くの支持者を見つけられるかが鍵。

世論調査ではバイデン氏が7.6%リード中。

激戦州ミシガンに住む一般有権者のリアルな声

エイダン・マックグレース(Aidan McGrath)さん・25歳・環境科学者

エイダンさんは、水質、土壌、空気の検査をする環境科学者。ミシガン州のグランドラピッズ市という人口20万人ほどの、デトロイトに次ぐミシガン州第2の都市に住んでいる。

ミシガンは五大湖沿岸の州。エイダンさんが住むグランドラピッズ市は、デトロイト市まで車で2時間半の場所。(出典:グーグルマップに筆者が加工)
ミシガンは五大湖沿岸の州。エイダンさんが住むグランドラピッズ市は、デトロイト市まで車で2時間半の場所。(出典:グーグルマップに筆者が加工)

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── 大統領選におけるアメリカの現状と、エイダンさんの見解を教えてください。

まず私はリベラル派です。私にとってアメリカは今、とても悪い状況です。この国は大きく2つに分断していて、互いがいつも敵対視し、言い争っています。たくさんの白人の人種差別主義者がいて、そのような人々は変化を嫌います。この国に変わってほしくないのです。

国内には、多くのKKK(白人至上主義団体)や白人テロリスト組織のようなものも存在し、ミシガンにも「ミリシア」という組織があります。このような組織を支援する人々はトランプを支持しています。そしてトランプもこのような組織、そして人々の怒りや恐怖心という感情を利用し、政治的に有利に持っていこうとしています。

── ミシガン州の一般的な政治的傾向は?

都市部に住む大卒の人々はリベラル派が主流です。田舎にもたくさんの人が住んでおり、得てしてコンサバティブで人種差別主義者が多いです。

近所の様子。(本人提供)
近所の様子。(本人提供)

私の自宅周辺は、軒先にバイデン支持表明のプラカードを掲げている人が多いけど、中には車のバンパーにトランプとICE(米国移民・関税執行局)の支持を表明するステッカーを貼っている人もいて、やや変わり者と近所では見られています。田舎に行けば行くほど、トランプ支持のプラカードを多く見ます。

── あなたがリベラル派というのは、育った環境が影響していますか。

そうですね。私の父はカリブ文学の大学教授、再婚した義理の母はドミニカ共和国からの移民で薬剤のセールスをしています。トランプは移民、特にメキシコ人の悪いイメージを刷り込ませてきましたが、私は高校、大学を通してたくさんの素晴らしいメキシコ系の友人に恵まれました。

ミシガンの多くのメキシコ系移民は農業に従事し、社会的に抑圧されてきましたが、私は「それはおかしい。移民の人にも同等の自由があるべき」と思うようになりました。

── 今年の選挙では誰に投票する予定か、もし差し支えなければ教えていただくことはできますか。

はい、問題ないです。家族全員、前回はヒラリーに投票し、今年はバイデンに投票します。理由はトランプが嫌いだから。かく言う私ですが、実はバイデンのこともあまり好きではありません。でもトランプよりマシだと思っています。

── その心は。

トランプの理想郷はとても危ないです。白人は、もちろんすべての人じゃないけれど、コンサバで自分の権利ばかりを主張し、ほかの人種や移民を下に見ています。そしてミシガンのそのような人々は、銃が大好きです。このようなタイプは要注意人物です。差別主義者は、自由に銃を持つべきではありません。当然彼らは、ブラック・ライヴズ・マター運動も大嫌いです。BLMの本当のメッセージは「皆の命が大切」ということなのですが、そのような危ない人々は「自分たちとほかの人種や移民は平等ではない」と主張します。つまり平等になることを恐れているのです。

── ミシガンは激戦州の1つですが、選挙にどのように影響しそうでしょうか。

田舎にも多くの人(多くはコンサバな労働者階級、農業従事者、貧困層の白人)が住んでいて、それらの票こそが大統領選に大きなインパクトをもたらすでしょう。田舎の人はハイブマインド(集合精神)があり、投票にも一緒に行き、誰に投票しようねと事前に示し合わせる、みたいなところがあります。都市部に住んでいる人は各自の生活があるので、そういうことはしません。

前回の大統領選では、トランプがビジネスマンであり政治家ではなかったことから、田舎の人はトランプに対して懐疑的でしたが、今年はそのような田舎に住む人々がより多く投票所に行き、トランプに票を入れると思います。その理由は、この4年間でトランプ政権により多くの雇用が創出され、通常は政治的、社会的に弱い立場の彼らに多くの力が与えられたからです。彼らはそんな現状に満足しています。

エイダンさん(Zoomの画像から)。「仕事を通してリベラルのみならず、さまざまな政治思想を持つ人々に接する機会が多い」と語る。
エイダンさん(Zoomの画像から)。「仕事を通してリベラルのみならず、さまざまな政治思想を持つ人々に接する機会が多い」と語る。

── ということは、ミシガンでは前回より多くの白人労働者階級がトランプに投票し、大きなインパクトを与えると予想しているのですね。

そうです。ミシガンは独特な場所です。全米一裕福な街の1つ(デトロイトのある東部オークランド郡)と、その近くに全米一貧しくて危険な街(ヘムトラムク市、フリント市)が両方あります。デトロイト周辺はもともと車の生産地として栄え富を築いてきたけど、生産拠点の変化などで都市が衰退し、それに伴い殺人や放火など凶悪犯罪が増え、未だに大きな社会問題です。これらの危険な地域に住んでいるのはメキシコ系移民や黒人で、彼らは通常民主党に投票するけど、ここ数年で雇用問題が改善されたため、この票もトランプに行くと思います。

今年は、新型コロナの問題もあり失業率は再び増え、都市部が大打撃を受けています。でも通常のトランプ支持者は、その辺のことは構わないんじゃないかな。彼らが重視するのは、白人にとっての「自由」であり、移民やほかの人種と「平等でない国」ですから。ビジネスは打撃を受けたかもしれないけど、何が起こってもトランプに票を入れるはずです。

── ではズバリ、選挙戦の結果はどうなると予想しますか。

う~ん...多くの若者はバイデンを選ぶと思うし、私もバイデンが勝つことを希望しているんだけど、おそらく接戦になり...最後はトランプが勝つかな...。英語で「Hope for the best and prepare for the worst」(最高な状況を願い、最悪な状況のために準備をしよう)ということわざがあります。その心で見守りたいと思います。

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(Interview and Text by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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