アンティファ、NYの店舗を再襲撃 ── BLMから3ヵ月の今、叫ばれる「割れ窓理論」

アンティファ(アンチ・ファシズム)のプラカード。ボストンにて2017年。(写真:ロイター/アフロ)

アメリカのブラック・ライヴズ・マター(BLM)運動のその後をご存知だろうか?

ジョージ・フロイド氏が殺害された5月末以降、全米各地で大規模なデモが毎日行われてきた。その後デモは縮小し、ニューヨークでも集会が行われてきた公共スペースや警察署の周辺は現在、バリケードがそのまま残された状態ではあるが、目を光らせる大量の警官はもういない。

しかしながら今でも、集会やデモ行進は平和的に続いている。数日前も、筆者の自宅前の通りでは、自転車に乗った100人以上のグループ(多くの参加者は黒人ではない)が、警察への抗議として「No justice, no peace… (正義なくして平和なし)」と連呼しながら走っている姿を目にした。ニュースを見ても、抗議はまだ終わっていないことを実感する。

そんな中、事件は起きた。

8月15日夜、ブルックリン区内でも治安が良いエリアの1つ、ウィリアムズバーグ地区でデモが行われていたが、一部暴徒化した集団が、閉店後の店を次々と襲撃した。地元メディアは、一部は反ファシズム運動を展開するアンティファ(Antifa)による犯行とみている。

トランプ大統領は以前の声明で、アンティファが暴動を扇動しているとし国内のテロ組織と見なすと非難してきた。

映像ニュースサイト「ライヴリーク」も、今回発生した破壊や略奪の様子を映し出した。【閲覧注意:動画には破壊的なシーンが含まれています】

この映像で、誰もが5月末に当地で発生した破壊、略奪行為を思い出した。今回も犯人がアップルストアやホールフーズマーケットなどの窓を割って店舗に不法侵入をしている姿や、スプレーで外壁に「FTP」(警察を罵る言葉の略)、「ヤッピー死ね」(ヤッピー=若くして成功した金持ちのこと)、「人殺しベゾス」(ホールフーズマーケットを運営し、警察組織と癒着があると言われているアマゾン社CEO、ジェフ・ベゾス氏)などの落書きをしている姿が映し出された。

ライヴリークによると、この日のデモはもともと、ジョージア州ストーンマウンテン州立公園で行われている、南軍記念碑の撤去を求めているデモのサポーターだったという。この記念碑は、公民権運動家により人種差別のシンボルとし叩かれているものだが、この記念碑のデモとアンティファによるとされる今回の破壊行為の関連性は不明だ。

今回襲撃された店があるウィリアムズバーグ地区は2000年以降にアーティストが、近年はヤッピー層が好んで移り住み、夜間でも割と治安の良い場所だ。このニュースを聞いた近隣住民は、「1970年代に逆戻りだ」「犯人は鬱憤ばらしで破壊行為をしているだけ。彼らは何も考えていない」と、怒りをあらわにした。

治安悪化の一途を辿るNY

少し前にもこのような記事を書いた。

ニューヨークはパンデミック以降、特にBLM運動が発生したあたりから、銃撃事件が急増し、治安悪化の一途を辿っている。これまで銃がらみの事件を滅多に聞かなかった筆者の近所(徒歩10分圏内)でも先週、2人も銃で撃たれた。15日午前10時半ごろには、主要駅の1つグランドセントラル駅のプラットフォームで、40歳の男性が何者かにランダムに腕を撃たれる事件も発生した。犯人は捕まっていない。

NYPD(NY市警察)が8月3日に発表した最新の犯罪統計でも、治安悪化が数字として表れている。今年7月の1ヵ月間に市内で発生した発砲件数は244件で、昨年同時期の88件に比べて177%も増加。また昨年1月から7月末までに発生した発砲件数は450件、今年の同期間は772件(被害者に6歳児や1歳児も含む)で、こちらも72%の増加だ。

また殺人件数も増加している。7月の1ヵ月間に市内で発生した殺人件数は54件で、昨年同時期の34件に比べて59%増加。今年1月から7月末までに発生した殺人件数は235件で、昨年同期間の181件と比べると30%増加した。

ほかにも7月は自動車やバイクの盗難が900件にも上り、昨年同時期に比べ53%も増加した。唯一減少したのは性的暴行事件だけだった。

市内全域で急増する重犯罪に対処するため、NYPDでは7月19日、事件多発地域を対象に「エンド・ガン・バイオレンス計画」(End Gun Violence plan)を立ち上げた。新型コロナの影響で観光客が激減しているため、観光地に配備する警官を減らし、その分、重犯罪多発地域に配備するというもの。しかし実施から約1ヵ月経ったが、その効果はなかなか数字として反映されていない。

再び叫ばれる「割れ窓理論」

犯罪対策を語る上で、アメリカではよく耳にする「割れ窓理論」(Broken Windows Theory)というのをご存知だろうか?

これは「街中の建物の窓が壊されても誰も気にせず放置しておけば、残りの窓もすぐに壊される」「小さな秩序の乱れは、やがて強盗や殺人など重犯罪に発展する」という考えだ。治安を維持するには、たった1枚の窓も壊れた状態にしておかない、落書きやポイ捨ても放置せず、排除、清掃することが治安向上には重要なのだ。

この理論はもともと、犯罪学専門のジェームズ・ウィルソン氏とジョージ・ケリング氏が1982年に『アトランティック』誌で発表し、話題となった。

ニューヨークは1975年の市財政危機を引き金に、国内有数の犯罪多発都市になった汚名の歴史がある。しかし2013年をピークに、近年治安が向上したのは、1990年代以降この「割れ窓理論」が実践されてきた功績が大きい。治安回復を公約したルディ・ジュリアーニ氏が市長として94年に誕生し、当時のブラットンNYPD警察長と共に、割れ窓理論を採用し治安対策に乗り出した結果である。

90年に年間2200件以上に上った殺人件数も、ジュリアーニ市長が誕生して3年後には犯罪数が減少し、67年以来の最低水準にまで低下した。それまで売春婦がたむろしていたタイムズスクエアが現在のような世界的観光地として生まれ変わったり、グラフィティだらけだった地下鉄が綺麗になったりしたのは、前市長の功績が大きい。

しかし、この街は残念ながら再び荒廃の道を歩んでいる。BLMデモを悪用した一部の犯罪者により、多くの店が破壊され商品が略奪された。建造物はスプレーで落書きされ、使い捨てのマスクや手袋を含むゴミが闇雲に道端に投棄されるなど、バンダリズム(破壊)が深刻化しつつある。だからこそ今、再び「割れ窓理論」に焦点が当てられている。

6月上旬、ニューヨークのどの店も防護板が取り付けられ、新型コロナのパンデミックでゴースト化した街がさらに無残な姿になった。小さな無秩序も見逃してはならない。再びこんな死んだ街になるのは御免だ。

6月、防護板が取り付けられた五番街のドルチェ&ガッバーナ。現在は多くの店が板を取り外しているが、再びこんな姿に戻るのか!? (c) Kasumi Abe
6月、防護板が取り付けられた五番街のドルチェ&ガッバーナ。現在は多くの店が板を取り外しているが、再びこんな姿に戻るのか!? (c) Kasumi Abe

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