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NY高級コンドで33歳CEOバラバラ殺人 犯人は長年働いた秘書だった(事件まとめ)

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
切断遺体で見つかったSaleh氏。将来を有望視された人物だった。(昨年5月撮影)(写真:ロイター/アフロ)

7月14日、ニューヨーク・マンハッタンの高級コンドミニアム(以下コンド)の自宅で、IT企業のCEO、ファヒム・サレ氏(Fahim Saleh)が切断遺体で発見された事件。発見から3日後の17日、容疑者が逮捕された。

容疑者は21歳の元従業員、タイリース・デヴォン・ハスピル(Tyrese Devon Haspil)。サレさんのパーソナルアシスタント(秘書)を16歳から務めていた人物だ。

(参照:ニューヨークタイムズ、17日容疑者が移送されている様子)

ファヒム・サレ氏とは?

殺されたサレさん(享年33歳)は、オートバイを使ったデリバリーサービスのスタートアップ「ゴカダ」(Gokada)の共同創業者およびCEOとして知られる人物だ。同社は2018年にナイジェリアのラゴスで設立以来、同地がオートバイタクシーの規制を始めた今年の初めまで、オートバイの配車サービスを軸に事業拡大し、同国の発展にも尽力してきた。

サレさんは、バングラデシュ人の両親の下サウジアラビアで生まれた。幼いころにプログラミングに目覚め、高校時代に最初の会社を設立。米ベントレー大学を2009年に卒業後、「ゴカダ」のほかにも、交通系サービスPathao(本社バングラデシュのダッカ)や投資会社Adventure Capital(本社ニューヨーク)など次々に新規事業を立ち上げ、世界を舞台に若手起業家として手腕を発揮してきた。

起業家として大成功を収め益々注目を集める中、ワシントンポスト紙にはサレさんの友人談として「発展途上国の次期イーロン・マスク」と期待を寄せられていたというコメントもある。

事件発覚の翌日には、バングラデシュのICT担当大臣、ズナイド・アフメド・パラク氏(Zunaid Ahmed Palak)がツイッターで、サレさんに対し哀悼の意を表明。サレさんの死は両親の祖国バングラデシュにとっても大きな損失と言えるものだ。

事件の背景と動機

サレさんは225万ドル(約2億2500万円)で昨年購入したマンハッタン(ローワーイーストサイド地区)の高級コンドに住んでいた。

(サレさんの室内とされる様子が、インスタグラムに投稿されている)

サレさんと連絡が取れないことを不審に思った妹が14日午後3時ごろ、自宅に様子を見に行き事件が発覚した。サレさんの遺体は頭部と四肢がバラバラに切断されており、一部はビニール袋に詰められている途中だった。

警察の調べでは、犯人は前日13日午後にサレさんを殺害し、その後店で清掃用具を購入して翌日現場に戻り、遺体の切断作業をしていたようだ。妹が自宅ブザーを鳴らした際、犯人はまだ作業中だったようで、慌てて裏口の非常階段から逃げて行ったと見られている。また現場にほとんど血痕が残っておらず、室内を荒らされた様子もないことから「強い殺意のある者が事前に計画した、プロ並みの犯行」との見方がされていた。

サレさんの姿が最後に確認されたのは、13日の午後1時40分ごろだ。ドアマンは常駐していないコンドだったが、監視ビデオに一部始終が映っていた。サレさんは身なりの整った全身黒色でマスクを着けた男と7階の自宅に直結するエレベーターに乗り込み、自宅に到着した瞬間、犯人はサレさんにテーザー銃を使って襲いかかった。その後首元など複数を刺して殺害した。

逮捕されたハスピル容疑者とは?

地元メディアは17日朝、警察がハスピル容疑者を逮捕したと報じた。現場に残されていた電動ノコギリから容疑者逮捕に至ったようだ。

ニューヨークタイムズ紙によると、ハスピル容疑者は16歳のころからサレさんの下で働いていた。

勤務中、ハスピル容疑者はサレさんから9万ドル(約900万円)を盗み、それが原因で解雇されるなど、トラブルがあったと見られる。サレさんは慈悲心からか、窃盗事件として警察に届け出をせず、ハスピル容疑者に対して返済計画を立てるように求めていた。

また勤務時の給料はよかったようで、ハスピル容疑者は給料を家族の借金返済に充てることができていたとメディアは報じている。

話し合いなら外でできる。通常、人は嫌悪感を示す人物をまず自宅には入れないものだ。サレさんが金銭面で裏切られた相手を(どんな理由であれ)自宅に招いたということは、16歳のころから知る容疑者に対してどこか「許してあげたい」「信じたい」気持ちが残っていたのではないだろうか。在職中とても世話になったであろうサレさんに対して、容疑者はなぜ恩を仇で返したのか。お金がこの青年の心まで奪ってしまったのだろうか。

ニューヨークは特に新型コロナウイルスのパンデミック以降、治安が悪化し、マフィアが関連した銃撃事件が毎日のように発生しているが、今回のような遺体を切断するような猟奇殺人は決して多くない。一体何が起こったのかと震え上がったが、容疑者逮捕の一報に市民は胸を撫で下ろした。さらなる動機の解明が待たれる。

(Text by Kasumi Abe)  無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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