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アジア系米国人記者に「中国に聞け」と激怒し会見打ち切ったトランプ その一部始終

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
米CBSのホワイトハウス担当記者、ウイジア・ジアン氏。(写真:ロイター/アフロ)

アメリカでは5月14日、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の症例数が139万5000件、死者8万4000人を超えた。

「アメリカはなぜ感染者が多いのか?」

これについては、トランプ大統領の4月29日のツイート内容をもとに、先日の記事でも触れた。

参照記事

米「最悪のシナリオ」をもとに、遺体収納袋をさらに10万袋用意【新型コロナ】

  • 「アメリカの感染者数が世界一多いのは、検査体制が世界一整っているから」というのがトランプ氏の見方。

「そのような不快な質問は中国に聞きなさい」

5月11日のホワイトハウスでの定例記者会見で、トランプ氏とある記者との間ですったもんだが起こった。記者からの質問がトランプ氏の逆鱗に触れ、この日の記者会見が途中で打ち切られたのだ。

記者は、中国系アメリカ人のウイジア・ジアン(Weijia Jiang)氏。ホワイトハウス担当記者で、CBSニュースではおなじみの顔だ。

2人のやりとりはこちら。

ジアン氏:コロナウイルスの検査数について、あなたはなぜ『アメリカがほかのどの国よりはるかに優れている』と頻繁に主張するのですか?国際的な競争が、あなたにとってなぜ重要なのですか?毎日この国でものすごい数の人々がいまだに命を落とし、感染者も増え続けているというのに。

トランプ氏:命を落としているのは世界中で起こっていることだ。そしてそのような質問は中国に聞くべきだろう、いいかい。私に聞かないで、中国に聞きなさい。非常に変わった答えが返ってくるだろう。はい次の質問、後ろの方どうぞ。(ジアン氏の後ろの女性記者を指す)

ジアン氏:(困惑した状態で固まり、一度やりとりを諦めるも)なぜあなたはそのようなことを“私”に対して言うのですか?

トランプ氏:今言った通りだ。誰かに対して言っている訳ではない。不快な質問に対して、そのように答えているだけだ。はい、次の質問どうぞ。

ジアン氏:不快な質問ではありません。あなたにとって何がそこまで問題でしょうか?

トランプ氏:はい、そこのあなたどうぞ。(少し前に指された女性記者とは別の記者を指す)

女性記者:私、2つ質問があるのですが。

トランプ氏:あなたは結構です。はい、後ろの方どうぞ。

女性記者:あなたは先ほど私を指しましたよ。私、質問があるのです。

トランプ氏:指したのは確かだが、あなたは答えなかったではないか。次の方どうぞ。後ろの若い女性の方。

女性記者:(食い下がる)

トランプ氏:オッケー、レディース・アンド・ジェントルメン、どうもありがとうございます。感謝いたします。

このように、トランプ大統領はこの日の記者会見を強制終了した。よほど虫の居所が悪かったのか、ほかの関係ない記者までとばっちりを受ける形で。

4月以降、記者との間で緊張が高まることが多々あったが、この日の記者会見は「崩壊」そのものだった。

ジアン記者(右)の翌12日のレポート。アメリカの新型コロナウイルス検査のキャパは週300万人分だが、実際には週600万人分が必要だ。しかしトランプ氏が世界最多の検査数を『功績』として強調すること、ホワイトハウスのスタッフや記者全員にマスク着用を義務づけトランプ氏だけ「例外」であること、また経済活動再開が早すぎるのではないか、などを問いかける内容だった。

ちなみに問題の「不快なやりとり」に関して、映像は映し出されはしたが、ジアン氏からのコメントはいっさいなかった。(やりとりの映像は1:54あたりから)

ちなみにトランプ大統領は12日朝、このようにツイートしている。

アジア系アメリカ人は、中国が我が国と世界に対して行ったことに非常に腹を立てている。 中でも中国系アメリカ人の怒りは相当なもの。まぁ無理もないことだ!

実はトランプ大統領とジアン氏との小競り合いは、これが初めてではない。ジアン氏が先月「なぜ3月中旬までソーシャルディスタンシング戦略をしなかったのか?」と初動の遅れを指摘したところ、大統領は「我々は、中国からの入国規制を早くから取り入れた」と話をはぐらかすなど、緊張状態になったことはこれまであった。

またトランプ氏の攻撃相手はジアン氏だけではなく、さまざまなメディアが標的になっている。特にコロナ禍となって以来、トランプ氏は気に入らない質問を投げかける記者に対して「フェイクニュース」と罵声を浴びせたりホワイトハウスの出入りを禁止するなど、記者狩りがひどくなっている。

CBSの代表、スーザン・ジリンスキー氏は「(ジアン氏の)質問内容は完全に正当なものだった。我々のホワイトハウス担当記者らが難解で重要な質問をするよう、今後もサポートしていく」と記者団を擁護する姿勢を見せた。

米メディアの反応は?

米各紙も、このやりとりについて取り上げた。

ワシントンポスト紙

「CBSのWeijia Jiangに対するトランプの『中国に聞け』という答えは衝撃を与えた(いつものパターンだが)」

「トランプ大統領はこれまで、ずいぶんと上から目線で記者に対して暴力的な態度で対応してきたが、パンデミック以降の記者会見での態度は特にひどくなっている。場が凍りつくジアン氏とのやりとりは、彼が分が悪い質問に対して屈辱的な気持ちを抑えられないことをあらわにした」

CNN

「大統領、あなたはアジア系アメリカ人のために話していない」

「多くのアジア系アメリカ人にとって、アメリカ社会での地位を思い出させるものだった。言葉の選び方、政策、憎しみに満ちた対応により、我々は深刻な危機に瀕している。あなたの言う通り私は非常に怒っているうちの1人だ。しかし中国に対する怒りではない。中国政府の誤りは世界的危機が終息した後に明らかにされるだろう」

不快な記者と中国に対してのヘイト

ここ最近のトランプ氏は、不快な質問をする記者に対してもそうだが、中国バッシングも日に日にエスカレートしている。

コロナ騒動が起こって以来、アジア系への差別や嫌がらせがアメリカのみならず世界各地で報告される中、トランプ氏のような影響力ある人物が公式の場でわざわざ「中国ウイルス」と表現したり、中国政府への怒りや不満をあらわにすることで、アジア系への差別や偏見が助長されている。

人間だから誰でも怒りのような感情はあって然るべきだが、彼は世界でもっとも影響力のある1国の代表だ。もう少し怒りをコントロールしてもいいのではないだろうか。記者のどんな質問に対しても、冷静にうまく説明しようとする謙虚な姿勢は、ニューヨーク州のクオモ知事の方が優れている。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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