毎日100人、年間4万人が銃で命を落とす国 3億丁ある銃器との共存やいかに?

米ユタ州の銃器販売店。AR-15ライフルなどが並ぶ(2016年)(写真:ロイター/アフロ)

ジョン・F・ケネディ、マーティン・ルーサー・キングJr、ジョン・レノン ── 。歴史を振り返ると、アメリカではさまざまな重要人物が凶弾に倒れてきた。近年、一般市民が銃によって命を落とす数は、毎年1万人以上。2017年には、半世紀で最多記録に達し、4万人近くの人が銃で亡くなった。

その中でも、罪のない人を無差別に巻き込む「乱射事件」は特に厄介だ。全米で相次ぐ乱射事件に、人々は強い怒りと失望を拭いきれない。表にこそ出さないが、心の奥ではピリピリしている、特にここ最近は。

ニューヨークでも6日、奇妙なことが起きた。世界中からの観光客が集まるタイムズスクエアで、バイクの破裂音を銃声と勘違いした人々が逃げ惑い、周辺は一時パニック状態に陥った。

ニューヨーク市は、全米の中でも銃規制が特に厳しい街だ。銃購入の際の身元チェックや銃器登録が必須であることはもちろん、銃の持ち歩きは一切禁止されている。自由の女神など主要観光地では、空港並みのセキュリティチェックが敷かれ、銃器の携帯に目を光らせている(テロ対策でもある)。

とにかくそのような銃に厳しい街でも、バイクの爆音でこんな大騒動になったのは、乱射事件が多発した後、人々がいかに「銃」に敏感になっているかの表れだろう。

「米渡航に注意せよ」とアムネスティ

国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」は7日、アメリカへの渡航注意勧告を出した。

その理由として、「米政府は、銃器へのアクセスを規制するために連邦、州、および地方レベルでさまざまな措置をとり国民を保護する義務があるが、その十分な措置を講じていない」と同団体。

「旅行者の性別、人種、出身国、民族的背景などによって、銃の被害に遭う可能性が高くなる場合もある。多くの人々が集まるイベント、礼拝所、モール、バーやナイトクラブは避けた方がいい」と警告している。

実際に現地に住んでいる実感として、今のところ人々の生活の変化は特に感じられないが、今後具体的な策が講じられず、大きな変革がないままだと、観光客減など経済を打撃するさまざまな歪みの原因となり、一般の人々の生活にも影響が出てくるかもしれない。

銃で命を落とすのは毎日100人

日本の感覚からは想像もできないが、アメリカでは、乱射事件だけでなく単なる銃絡みの事件や事故、自殺なども含めると、毎日100人近くの人々が命を落としている。

銃暴力統計サイト「Gun Violence Archive」を見ても、筆者の6日の記事の段階(夜間)は、銃による死者数は8,795人だったが、2日後の8日に再び確認すると、8,958人に増えていた。数字は嘘をつかない。

  • 注:『Vox』紙およびこちらの記事にもある通り、銃により亡くなった年間4万人近くの60%は自殺。よってこの1日100人に関しても60人ぐらいは銃による自殺と考えてよいだろう。

「なぜ銃による死者が多いか?答えはシンプルだ」

米メディア『Vox』は6日「銃が問題だ」という直球的な見出しをつけ、銃大国に渦巻く問題に一石を投じた。

同メディアは「ほかの先進諸国と比べてアメリカだけが、精神疾患や憎悪、暴力的なビデオゲームが断トツに多いわけではない。ではなぜこの国だけ銃による死者数が多いのか?」と投げかけ、主な理由として2点挙げた。

  1. 銃規制の障壁が少ない。バックグランド(身元)チェックが緩い州で購入できるなど抜け穴だらけ。本当に購入しようと思ったら、さまざまな手段でいとも簡単に手に入れられる。
  2. 銃の量が半端なく多い。個人所有の銃器の推定数は、2017年の時点で住民100人あたり120.5丁。(人の数より銃の方が多い)

ニューヨークに拠点を置くビジネス系のウェブマガジン『クォーツ』も、「アメリカの人口は世界人口の5%ながら、世界中にある銃の約半分を所有している」と報じている。

「莫大な数の銃が存在している。民間人(個人)が所有している銃の数は、国内に2億7,000万丁~3億1,000万丁」と同誌。

相対的に言って、アメリカは1人あたりの銃の数がもっとも多いようだ。 100人ごとに89~100丁の銃、つまり1人あたり約1丁ずつ所持している(2013年)。それらをわかりやすく表しているのが、以下のインフォグラフィック。

出典:QUARTZ.com
出典:QUARTZ.com

ただ、ほぼ全員が銃を所持しているのかと言えばそうでもない。「人口の3%がアメリカの民間銃の半分を所有している」と同誌。

出典:QUARTZ.com
出典:QUARTZ.com

銃所持が多いほど「より安全」vs「死者数は増える」と対立

NRA(全米ライフル協会)の主張は「銃の所持が多いほどより安全になる」。一方、ハーバード損傷コントロール調査センターの調べでは「銃は怨恨の殺人のみならず、無差別殺人、家庭内暴力、警察の発砲、自殺などに使用されており、銃が多いほど死者数は増える」。

緩い法律のもと銃にアクセスしやすい限り、乱射事件は今後もなくならないだろう」と『Vox』紙は結論づけた。

抜け穴の多い銃売買

『ニューヨークタイムズ』紙は6日、「銃販売の身元チェックを推し進めるのは、不満のたまる長い道のり」という見出しの記事を発表した。

「乱射事件が多発した後、民主党が銃所持のための身元チェックを推し進めるよう求めたが、NRA(全米ライフル協会)と癒着のある大統領は、この問題を移民問題と結びつけた」と同紙。

銃の展示会(見本市)や「Armslist」などの銃器販売専用ウェブサイトなど、個人の買い手や売り手が直接会って、売買のやりとりを進めるケースは身元チェックが特に必要だが、同紙はFBIからの情報として、「2,600万件の購入のための身元チェックのうち、売買許可が下りなかったのは約10万件。しかし、すべての購入に身元チェックが課せられているわけではない」としている。

同紙は、現行の法律における「銃取得のための抜け道」についても指摘。例えば、銃のディーラーが政府より身元チェックが保留となった理由を通知されない場合、3日後には購入できたり、銃の購入資格を失ってもオンラインで銃を購入できることもあるという。

日頃新聞や映像などで、喫煙の害を謳うイメージ広告はよく見るが、銃による暴力がいかに有害かをイメージさせるものを見た記憶はない。

「銃による暴力のグラフィックシーンを非難するような、文化的変化や改革が必要。現存する銃を一掃するのは1世紀ほどかかるだろう。しかし子供たちの未来のために、我々は武装しなくてもいいのだということを教えなければならない」と、子を持つ親は言う。

大事件が起こるたびに、人々は慷慨し、より良い社会の実現に向けて諦めずに訴え続ける。その勢いが世の中を前進させることもある。しかし、その前進のために、毎回多くの人々が命を落とさなければならないとすると、それはとても悲しく残念なことだ。

8日発行の各紙。『USA Today』も「怒り、行動への呼びかけ」という見出しで銃禁止を訴えたが、中面は「ニコチンの危険性を訴える」一面広告で、「銃の危険性」に関する広告は見られない。(c) Kasumi Abe
8日発行の各紙。『USA Today』も「怒り、行動への呼びかけ」という見出しで銃禁止を訴えたが、中面は「ニコチンの危険性を訴える」一面広告で、「銃の危険性」に関する広告は見られない。(c) Kasumi Abe

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