海外で近づいてはいけないエリアの判断基準は「○○」 NY銃乱射地区を歩いた体験から思うこと

乱射事件の起こったブラウンズヴィル地区は治安の悪さで有名。(写真:ロイター/アフロ)

ニューヨーク、ブルックリン区ブラウンズヴィル(Brownsville)地区で27日午後11時前、何者かが銃を乱射し、12人が撃たれ1人が死亡した。

事件が起こったのは、春から秋にかけて屋外で開催されるブロックパーティーというイベント会場。日本の縁日のように、通りや広場を車両通行止めにし、飲食ベンダーが軒を並べる。ニューヨークではこの時期、ブロックパーティーがあちこちで開催されており、家族連れも多い。事件現場になったのは、その中でも毎年恒例の大イベント会場だった。

本来、家族や近所の人々と交流を深める楽しいはずの、週末の屋外イベントが、一瞬にして地獄と化した。

地元メディアによると、38歳の男性が頭を撃たれ、搬送先の病院で死亡が確認された。また別の男性も危篤状態だという。

犯人は最低2人で、所持している拳銃も2つということまでわかっているが、身柄は拘束されておらず、警察が行方を追っている。

事件直後の、被害者が搬送される様子。事件当時2,000~3,000人が集まっていた。

「事件が起きたブルックリン地区は観光客にも人気の場所」は、合っているようで合っていない

観光シーズンのこの時期、ニューヨーク、そしてブルックリンにも毎年多くの観光客が訪れる。不安に感じる人も多いだろう。

1つは日本のメディアによる報道で、「事件が起きたブルックリン地区は、飲食店が立ち並び観光客にも人気の場所」という表現を目にするが、合っているようで合っていない。観光客にも人気のエリアで、あたかも今回の事件が起こったような誤解を与えてしまう表現だと思った。

ブルックリンといえば私が10年以上住んでいるネイバーフッドで、近年はトレンド発信地区として世界中から注目され、観光客も多く訪れる人気のエリア。(観光客には奨励しないが)真夜中に1人で地下鉄に乗っても問題ないくらい、私にとっては安全で快適な生活拠点だ。

ただし(特にアメリカでは)そのエリアの(今回ならブルックリンの)「どこか」がポイントとなる。

日本から見ると、アメリカの「ニューヨーク」「ブルックリン」とひと括りにされることが多いが、在住者目線で見ると、ひと括りにするにはニューヨークもブルックリンもとても広すぎる。

ブルックリンの面積は251平方キロメートル(東京23区の約半分弱)で、260万人以上が暮らしている。ブルックリンがもし政令指定都市だったとしたら、全米でロサンゼルス市、シカゴ市に続く3番目の都市になるくらいの規模だ。

その中で、事件が起こったのはブラウンズヴィル(Brownsville)という、大きなネイバーフッドの中の1つの地区だった。

乱射事件が起きたのは、JFK国際空港とマンハッタンのちょうど真ん中あたりに位置するエリア。出典:Google map
乱射事件が起きたのは、JFK国際空港とマンハッタンのちょうど真ん中あたりに位置するエリア。出典:Google map

ブラウンズヴィル地区は地元ブルックリンで「今でも毎日殺人事件が起こっている」と揶揄されるくらい、長きにわたって悪名高い。毎日というのは言い過ぎだが、それくらい頻繁に事件が起こり続けている治安の悪い地区だ。

私は昨年『NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ』(イカロス出版)という本を出版した。本づくりにあたり、まずは2つのことから始めた。1つはエリアの歴史を学ぶこと、もう1つは、掲載エリアを判断するために「実際に歩く」こと。

そのような理由で、ブラウンズヴィル地区は実際に訪れたことがあった。

前知識はあったのでそれを確認すべく行ったが、最寄りの駅を降りて少し歩いて、もう充分だという気持ちになり、すぐに撤退した。人も店も少なく、在住者の私でさえ「目的もなく歩きたくない雰囲気」が漂っていた。歩きたくない雰囲気というのは後ほど解説する。

実は先週も今回の事件現場の近くで、警官が男にバケツで水を掛けられる騒動が起こったばかりで、「この辺は崩壊しつつある」と報じている地元メディアもある。

とにかく、今回の事件現場となったのはそのようなエリアだ。

事件の起こった地区はどれほど治安が悪いのか?

ニューヨーク市内の3つのエリアを事例に、それぞれの犯罪件数を比べてみた。

  1. 乱射事件の起こったブルックリンのブラウンズヴィル地区のある73警察管区
  2. ブルックリン区でもっとも治安のよいとされているエリアの1つ、Park Slope地区(*注)のある78警察管区
  3. (統計により)ニューヨーク市内でもっとも治安がよいとされているエリアの1つ、マンハッタンのSutton Place地区のある17警察管区
  • 注:実際にはほかにも統計上で犯罪数の低い地区はあるが、今回は居住者が多いのに犯罪数の低いエリアを取り上げた。

統計結果を比較すると、ブラウンズヴィル地区(73警察管区)の治安の悪さが如実にわかる。例えば7月15日~21日の最新統計で見てみると、

犯罪総数:

73警察管区:21件(過去28日間で99件)

78警察管区:17件(過去28日間で67件)

17警察管区:11件(過去28日間で73件)

殺人数:

73警察管区:1990年60件、2001年26件、2018年13件

78警察管区:1990年5件、2001年1件、2018年N/A*

17警察管区:1990年6件、2001年0件、2018年N/A*

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旅行の際「ヤバいエリア」をどのように判断する?

実際のところ、旅慣れている人や当地を何度も訪れている人は、王道の観光スポットより「現地に住む人々の生活を見たい」と言う。

加えて、以前なら観光客は中心地にあるホテルに滞在するのが主流だったが、近年はAirbnb(エアビーアンドビー)などの浸透で「住宅街にある一般のアパート」に滞在し、「住んでいるような旅」にシフトしている印象だ。

つまり、旅人は奥へ奥へと向かっている。

そのような場合、「安全なエリア」と「近づいてはいけない(ヤバいエリア)」をどのように見分けるのか?

以前、日本から訪れたフォトグラファーの方に、こんな質問を受けたことがある。「治安が悪いエリアって、どのように把握するのですか?」

私は「大丈夫ですよ。そのようなエリアはガイドブックにも掲載されていないし、観光客はまず近寄らない場所ですから」と答えた。

その方は、「私は写真を撮り始めたら没頭して周りが見えなくなり、どんどん入り込んでしまうタイプなんです。だから近づいてはいけないエリアというのが、いまいちよくわからなくて...」と言った。

そのときに私が提案したのは以下の3点だった。

  1. 治安情報は、地元の人から収集する
  2. 路上にゴミが散乱しているエリアは避ける
  3. 人間の本能的に「ヤバい空気」というのはわかるもの

以下解説。

  1. ウェブサイトから情報収集するのも良いが、実際に住んでいる人が教えてくれるものこそ「生きた情報」。
  2. 道路にゴミが散乱しているようなエリアは治安の悪さを物語っている。日本の感覚では、マンハッタンの中心地でさえ「ゴミが多い」と感じるかもしれない。しかしここで言うゴミの散乱というのは、殺風景な場所で道路にゴミがたくさん捨てられ、誰もそれを気にせず、清掃が行き届いていない場所のこと。
  3. 直感を信じる。これは説明が難しいのだが、行き交う人の数は疎らで、たまにすれ違う人の目はどこか死んでいるように覇気がない。自分が「ヤバい」と感じたら、ほぼその通りと思って間違いない。

当地で心配することがなくなってしまった筆者も、アメリカの見知らぬ土地(特に南部)や南米諸国などに行く際は、治安が気になってしまうが、以上のことを常に頭に入れて行動している。

とは言え、治安の悪いエリアを回避したところで、事故や事件は100%回避できるものでもない。特に銃社会のアメリカでは、場所がどこであれ、いつ撃たれても文句は言えないのかもしれない。ただし、1つだけ言えるのは、その地に住む人々は、いたって普段通りに生活している。何か起こるのでは?とビクビクして生活しているわけではない。

私の住むアパートのすぐ近所では毎週末、キッズたちがバスケットボールの試合に汗を流している。ホイッスルが鳴り響き、保護者らが自分が試合の主役と言わんばかりに熱く観戦する姿はなんとも微笑ましい。

乱射事件の一報が耳に入った翌日も、そんな平和な空気が流れるブルックリンの片隅で、日曜日の昼下がりに思ったことだった。

(Text by Kasumi Abe) 無断転載禁止