自営業になって変わった「お金」への意識。お金を払うことは「評価を伝えること」であり「応援」である【フリーアナウンサー住吉美紀】
だからこそ、買い物をするときに「同じものを買うにしても、本当にここに落としていいのか」とワンクッション問うてみたり、「本当に私の応援したいところに、お金が届くのか」と注意深く考えたりするようになった。 その意味で、1ミリも迷いなく「是非応援したい」とお金を使う機会が、年始早々にあった。 今年の元日は、能登半島地震からちょうど一年。元日も通常通り生放送をしているラジオで、田谷漆器店代表の田谷昂大さんのインタビューを放送した。最大震度七の揺れで甚大な被害を受けた石川県輪島市で、輪島塗の復興と再生に取り組んでいる、33歳の漆器プロデューサーである。二百年以上の歴史を持つ輪島塗の製造販売店である田谷漆器店は、事務所、倉庫、工場が全壊、朝市周辺に建設中だったギャラリーも全焼した。 漆器に携わる方、皆が被災した状況で、自分たちの店はさることながら、産地全体をなんとかしないと未来がないと考え、田谷さんはスピーディに行動した。「未来の輪島塗を注文してください」と、地震から1ヵ月経たぬうちに仲間と共にクラウドファンディングを立ち上げた。 結果、当初の目標額を大きく上回る、6500万円以上を集め、自分の店だけでなく、多くの職人や漆器店に仕事が行き渡るようにと割り振った。作業場がないと何もできないので、敷地内にトレーラーハウスを数台用意、そこで職人の方々が制作を再開し、今も続けていると言う。 復興の足は遅い。田谷さんが生まれ育った家もようやく公費解体が始まったそうだ。ただ、解体で更地が増えてくると、すぐに元の街並が思い出せなくなる。人が戻ってくるのか、能登らしさがなくなってしまうのではという不安と、そこに新しい能登の文化を作っていかなければという思いで今、日々を過ごしている。 「お正月気分になれないので、元日から敢えて働くことにしました」と田谷さん。1月は都内の百貨店3ヵ所で、続けて展示会を開催するというお話だった。 インタビューは年末に、リモートで収録した。田谷さんは、感情的にならずに淡々と、わかりやすく語ってくださった。私も収録時は、強い気持ちを持って話に耳を傾けた。しかし、生放送時、いつもよりゆっくりとした元日の空気感の中、改めて田谷さんの思いに共感しながら、じっくりとその録音を聞いた直後。 「お正月気分になれないから働く」という田谷さんの心境を想像すると心が苦しくなり、堪え切れずに涙が込み上げ、私はマイクの前で話せなくなってしまった。展示会の情報を正確に伝えなくてはお役に立てないのに、肝心のところで言葉を詰まらせるなんてプロとしてあるまじき失態、と落ち込んだ。少なくとも私は絶対に会場に足を運び、応援の気持ちを行動で表そうと心に決めた。