「幸せは冷蔵庫の残り物で作る料理にある」――秋元康が語るスター、ヒット、自分
大ヒットが手に負えなくなる怖さ
ヒットを期待されるプレッシャーはないという。しかし、プロジェクトが大きくなり、怖さを感じることはある。 「何でも大きくなっていく時、当たった時は、すさまじいエネルギーを持つ。例えばAKB48でいえば、秋葉原のキャパシティー250人の劇場でやっている間は、自分の企画、プロデュースでできましたけど、国民的アイドルになったり姉妹グループができたりすると、自分だけでは手に負えない。だからスタッフがいるわけですけど、それによってもっと広がってくる。大きくなってゴロゴロ転がっていく時、その一面を見た世間の反応に、『いや、そうじゃないんです』と思うこともいっぱいある。でももう説明したり、言い訳したりする間もない。これはしようがないことですよね」 投げ出したい気持ちになることはないのだろうか。 「それはありますね。投げ出したいというよりも、バトンタッチしたい。ここまでやったから、あとは誰かに代わってほしいという気持ちはありますよね」
ビジネスは得意ではないと言い、さまざまな立場を担うことに思うところもある。 「自分自身のマネジメントの大切さは感じます。企画を立てるだけであったらよかったな、と思ったりもする。『画家』と『画商』の両方を兼ねなければいけないのは、クリエーティブを阻害することでもあったような気がします」 「自分は職業クリエーターなので、いろんなことを考える。まずは依頼してくださる人の思いを成立させなきゃいけない。クライアントやテレビ局の意向を考える。芸術家は自分の中に表現したいものがあふれていて、ただ表現するもの。個展を開くにはどの場所がいい、こういう作品を描こう、宣伝はこうしようと考えた時点で芸術家ではない。自分が芸術家じゃないなと思う理由は、そこにありますね」
昨日まで隣にいた人がスターになる
作詞総数を尋ねると、「8000か9000くらい」。職業作詞家で、自分が世に訴えたいことではなく、そのアーティストが今、何を歌うといいのかを考えて書くという。 「例えば欅坂46の『サイレントマジョリティー』で、『大人たちに支配されるな』と歌うのは変じゃないか、という声もあります。プロデューサーがいて、大人たちが作った環境の中で歌っているのだから、パラドックスになっていると。でも、そうじゃない。彼女たちを見ていて、笑顔が少ないというか、何か大人に訴えかけているものを感じた。今、彼女たちが歌うには何がいいだろうと考えた時、『そのままでいい。何も迎合しなくていいし、自分の道を歩いたほうがいい』というメッセージになった。彼女たちが僕にそれを作らせたんです」 10代の気持ちを書けるのはなぜなのか。 「僕たちが学生の時は、好きだということを伝えるためにラブレターを書いた。それがポケベルになったり、メールやLINEになったりする。ツールが変わっても、返事を待つ気持ちは変わらない。『ポケベルが鳴らなくて』という歌をあえて書いたのは、たぶんポケベルってなくなるだろうなと。この言葉を使うのは今の時代しかないと思った」