医師として何ができるのか? DMATの医師が語る、災害医療の現実
地震や津波、台風といった自然災害、感染症のパンデミックやテロなど、国内外でさまざまな災害が起きています。被災した人にとって、医療は心強い存在ですが、災害の現場で医師はどのような役割を果たせるのでしょうか。発売中の『医学部に入る2025』(朝日新聞出版)より紹介します。 【写真】現場で緊急手術を行う様子 * * * 大規模な災害が起こると大量の負傷者が発生し、医療を必要とする人が一気に増える。命にかかわる重傷を負った人の治療は時間との戦いだが、地元の医師や医療機関だけでは対応しきれない。 こうした医療の需要と供給のバランスが崩れた被災地に医療支援チームの一員として入り、治療を行う医師たちがいる。厚生労働省が整備する「DMAT」がよく知られているが、自治体や病院、民間団体などからもたくさんの医師が集まり、命を救うために力を尽くす。 「災害時の医療は、平時とは大きく違います」 こう話すのは、国内外の被災地で数多くの医療支援活動を行ってきた大場次郎医師だ。発災直後の現地は医師や医療機関も被災しているうえに、停電や断水などで設備が使えないことも多く、医療資材や医薬品の補充も望めない。限られた時間、人員、資機材を最大限活用し、一人でも多くの人を助ける医療が求められる。そのため「CSCA・TTT」という災害医療の原則に沿って活動が進められる。CSCAはCommand and Control(指揮と連携)、Safety(安全確保)、Communication(情報伝達)、Assessment(評価)の頭文字をとったものだ。 「それぞれのチームが勝手に動くと、無駄を発生させてしまうことにもなりかねません。まずはCSCAを確立し、普段顔を合わせていない者同士でも協力して動ける態勢を整えることが大切です」と大場医師。 そのうえで傷病者の緊急度と重症度に応じて治療の優先順位を決め(Triage)、応急処置(Treatment)で状態を安定させ、適切な医療機関に搬送する(Transportation)。 発災直後は負傷者に対する外科的な治療が中心だが、2~3週間くらい経つと、長引く避難生活で持病が悪化したり、感染症が広がったりして、内科的な治療を必要とする人が増える。フェーズの変化に合わせて、救急や外科のスキルを持つチームから、感染症や公衆衛生を得意とするチームや地元の医師などに引き継いでいく。 「災害医療というと発災から間もない時期ばかりが注目されがちですが、本来は発災直後から復興に至る長いスパンの取り組みです。現地の人たちが以前の日常を取り戻すことができるように支援をしていきます」