医師として何ができるのか? DMATの医師が語る、災害医療の現実
■チームだからこそ多くの人を救える 大場医師は、医師になって8年目の2011年に発生した東日本大震災で初めて災害医療活動に参加。以来、国内だけでなく紛争下のアフガニスタンやトルコ南東部地震など、海外でも経験を重ねてきた。整形外科専門医と救急指導医の資格を持ち、災害時には初期に現地入りするチームの一員として活動し、負傷者の治療のみならず内科的疾患を含む幅広い分野を担当する。 「医師になりたてのころは災害医療のことは頭になかった。僕はすごく人に恵まれていて、さまざまな人との出会いが災害医療に導いてくれたような気がします」 きっかけは研修医時代に19歳の女性患者を担当したこと。大腸がんが進行し1年後に亡くなった。 「こんなに若くても亡くなるんだと。死を身近なものとして強烈に意識すると同時に、自分の無力さを痛感しました。医師として一人でも多くの命を救わなければと思いました」 ところが研修後に赴任したへき地の病院や診療所では、亡くなっていく患者を目の当たりにする。 「そのたびに、医療の地域格差をなくしたいとの思いが強くなりました。そのためには、自分一人で何でもできる医師になりたい、と思いました」 自己完結型の医師を目指し、さまざまな重症患者を扱う千里救命救急センターへ。しかし働き始めてすぐに、自分の考えが傲慢だったことに気づいたという。 「センターには頭部、胸部、骨などさまざまな分野の専門医がいて、ディスカッションしながら最善と思われる方法で治療していきます。自己完結型とは逆のチーム医療で、一人では救えなかったであろう命が救われていく。一人でできることには限界があり、同じ志を持った仲間がより多くいれば、より多くの命を救えることを思い知らされました」 ■仲間への感謝が信頼関係につながる 千里救命救急センターには災害医療にかかわっている医療者も多く、大場医師も在職3年目に発生した東日本大震災を皮切りに、自然な流れで支援活動に参加するようになった。救急医療と医療資源の乏しい状況下で行う災害医療は大きく違うが、救急で身につけたスキルは現場で大いに役立っている。そして両者に共通するのは「仲間の大切さ」だ。 「災害医療のチームには医療者だけでなく、連絡や調整を行う事務方や行政の担当者も不可欠です。海外ではさらに医療用テントを設営する土木や電気の技術者、通訳、キャンプで食事を作ってくれる人などさまざまな役割の人がチームに加わります」 互いに協力し合わなければ、支援は成り立たない。どうやって信頼関係を築いているのだろうか。 「特別なことではなく、常に仲間に感謝しています。仲間がいろいろやってくれるおかげで、僕は動くことができていますから。互いに感謝の思いを持っているだけでもチームはうまく回っていく。大変なことも多いけれど、同じ方向を向いた仲間と活動する現場は、やる気を湧き立たせてくれます」 災害は種類も規模も起こった場所もさまざまで、現地の状況は毎回異なる。いつも基本的な手順通りに活動を進められるわけではなく、その都度応用問題を解くような難しさに直面する。 「たとえばいくら最先端の治療であっても、現地の医療機関では継続できない特殊なケアを必要とするなら、別の方法を検討したほうがいい場合もあります。現地の人が本当に必要とする支援は何か、スポットで支援をする医療者だからこそ、その先も地域で生活していく被災者や地元の医療者の思いに寄り添い、考えながら活動していきたい。患者さんの社会復帰と現地の復興のためには、継続した支援が必要です。被災地に少しずつ笑顔が戻ってくるのを見ると、医者をやっていてよかったと感じます」