30分で4度の爆発、傷だらけのデッキ――スケーターたちへの現地ルポで迫る、ウクライナ侵攻2年の「いま」
彼らと同じ目線に立つためにスケートボードに乗る
ウクライナ人でもない、若者でもない私が彼らの心情に近づくためにはどうすればよいのだろうか。私は思い切っていったん、首都キーウに戻った。キーウで唯一と言われるスケートボードの専門店を訪れるためだ。 一時的でもいい。彼らを知るために、彼らと同じ目線に立ってみたい。だが、私のスケボーのレベルは多少遊んだことがある程度でほとんど初心者に近い。訪れたショップにあったスケートボードは中国製の既製品で1万7000円だった。思わぬ出費は痛手だが仕方がない。 どうもスケボーに年齢制限はないようで、中年の私に店員は快く対応してくれた。私はにわかにほっとしたが、本番はこれからである。新品のスケートボードを携えた私は鉄道で一晩かけ、再びハルキウに戻った。 宿に荷物を預け、スケボーとカメラを持ってすぐに広場に向かう。再会の挨拶もそこそこに「新しいスケボーを買ったの? ちょっと見せてよ」と集まってくる。 「挑戦してみたくて……」という私の言葉には耳を貸さず、念入りに私のデッキ(板)をチェックしている。まるで彼らの仲間入りをする試験のような錯覚になり少し緊張した。 「まあまあだな」 ギリギリ合格といったところだろうか。続いて彼らに認めてもらうために、まずはオーリー(ジャンプ)ができるようにならなければ話にならない。私は邪魔にならないよう広場の片隅で練習を始めた。
高校生スケーター・ベロニカとの交流
颯爽とスケボーに乗って現れたのは高校生のベロニカだ。見よう見まねで乗ろうとする私に彼女はニヤニヤしながら、「オーリーよりもまずは心地良く滑れるようになることだね」と鼻で笑い、これ見よがしにトリックを決める。 生意気な、と思ったがこちらはまだ立つのがやっとなレベルである。見かねたスケーターたちが入れ代わり立ち代わり現れると、「右足はもっと後ろへ、肩の力を抜いて」「膝を曲げるタイミングが違う」「身体の重心を中央にして」などと逐一教えてくれるのだが、言うことがてんでばらばらでわけがわからない。 なによりわからないのは、ウィール(タイヤ)が4つ着いただけのスケボーを重力に反して浮かせるということだ。いや、デッキを蹴り上げることによって浮くという原理はわかる。だが身体の使い方がわからないのだ。 それでもせっせと広場に通ううちに、ようやく10センチほどのオーリーができるようになった。嬉しかった。 それを横目で見ていたスケーターたちが「飛べてるよ、その調子だ」と言ってくれるのだが、声の調子からするとそれはあきらめと励ましが入り混じったような感じで、その優しさが中年の私の胸を刺す。 私はウクライナにスケボーをするために来たんじゃなかったはずなのだが。