DIC川村記念美術館、休館前最後の企画展「西川勝人 静寂の響き」をご案内【市川紗椰の週末アートのトビラ】
Ⓒ Katsuhito Nishikawa 2024 西川勝人は1949年生まれ、23歳でドイツに渡り、現在はノイス市に在住。広々とした展示室に迷路のような腰壁を設けた空間構成は、建築にも携わる作家自身によるもの。自然光のもとに彫刻、インスタレーション、写真作品が点在して、雲の流れや時間によって変化する
トビラの奥で聞いてみた
展示室のトビラの奥で、教えてくれたのは… DIC川村記念美術館学芸員 前田希世子さん 市川 高い天井の大展示室では、周囲の音が吸収されていくような不思議な感覚を味わいました。川村記念美術館ではいつも、建物自体が作品の見せ方を考えて設計されていると感じますが、今回も作品に合わせた展示方法が秀逸ですね。 前田 この展示室は、それ自体が作品である高さ1m、幅50cmの腰壁を巡らせ、9つのセクションに区切っています。腰壁には小型彫刻が置かれていますが、入口と出口は1箇所ずつのため、見えている作品も、近くにたどり着くにはぐるりと回っていかなければなりません。これにより空間全体が作品化されています。 市川 白を基調とした彫刻も、それぞれに微妙な色の変化があったり曲がり角の先で急に新しい作品が見えたり。また、天気や時間でも見え方が変わりますね。 前田 今回の企画展では、異なる光源を用いることで作品の陰影をより体感できます。特に自然光のみの展示は、美術館にとっては冒険でもありました。 市川 作品と光といえば、常設のロスコ・ルームの間接照明が印象的です。ぎりぎりにしぼった明るさの中で、じわりと色と筆跡が動きだすような……。 前田 制作中の彼のスタジオには、小さな天窓と天井に向けた照明しかなかったそうで、その照度を再現したのがロスコ・ルーム。実は今の美術館の照明はLEDが主体なのですが、この一室だけはハロゲンライトを使っています。ロスコが重ねた色の層が、LEDではどんなに実験しても平面的に見えてしまうのです。 市川 なるほど、作品と対峙できる特別な空間の秘密は、そんなところにも!