災害時、住宅確保どうする? 熊本地震きっかけに県内の不動産会社が強固に連携。現在も高齢者や低所得者、ひとり親等への住まい支援つづく 熊本県賃貸住宅経営者協会
被災者の支援を通じて「競争」から「共創」に転換した不動産会社
そこで同じ方向を向いた共創が必要不可欠となり、経営者協会の設立へと大きく動いていきました。大久保さんは、経営者協会の存在意義について次のように語ります。 「各団体や人が、それぞれの地域や分野でどのような支援を行ってきたか、情報を共有することで、その後の支援の幅が広がります。また、行政側からすると、経営者協会の1カ所に業務委託をすれば組織の会員のなかから必要な会社・団体が対応するので、スピーディーに新たな取り組みを実行できる点もメリットです」 「熊本地震から8年が経ちますが、被災された人が落ち着きを取り戻してきたのは6年を過ぎたくらいからという感覚。被災者に対する住まいの支援は被災直後だけではない継続的な支援が必要で、そのためにも多方面の関係者と連携して事業を進められる組織体が必要だったのです」
熊本地震の経験から、全国の被災地支援に思うこと
近年はとくに地震や豪雨など、全国で災害が起こり、深刻な被害をもたらしていますが、これらは対岸の火事ではありません。自分たちが暮らす地域でも、いつか必ず起こることを前提に考えなければならないことです。 大久保さんは、不動産関係者や行政の担当者の経験の少なさから、みなし仮設住宅についての細かい手続きや災害救助法の制度自体を知らない人も多いことを危惧しています。 「平時から制度についての理解を深め、行政を含めて住まいの支援に関連する団体と顔の見える関係を築いていなければ、いざ、災害が起こったときにスムーズに動くことは難しいでしょう。日ごろから関係者同士が同じ方向性を見て互いに相談し合える体制をつくっておくことが、万一の際に被災者に寄り添う支援につながります」
さらに、「災害というものは実際に経験しなければなかなか想像できないもの。今後も私たちの経験を伝えていきたい」との思いから、各地で災害が起こるたびに、大久保さんや協会の職員が現地に赴いて仮設住宅の立ち上げ支援などに参加しているそうです。 現在、経営者協会は行政やさまざまな専門家・団体と共創し、多岐にわたり活動しています。コロナ禍によって住まいを失った人、単身高齢者、ひとり親世帯など、さまざまな理由で住まい探しに困っている人たちの居住支援のほか、相続・法務等に関する相談対応、公営住宅の管理業務の受託、熊本地震における経験を全国の地方自治体に伝えることなどです。 熊本地震をきっかけに競争から共創へいち早く動き、住まいの支援を推し進めてきた経営者協会の活躍の場面は、被災時や被災後の支援のみならず、ますます広がりを見せているようです。この経験と取り組みは、ほかの地域においても参考にできる被災者支援のヒントが多くあるのではないでしょうか。 ●取材協力 熊本県賃貸住宅経営者協会
和田 文(りんかく)
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