冬の味覚ズワイガニ漁解禁、福井県「越前がに」の実力をみる
ゆっくりむいて90秒
11月11日、東京・日本橋の三越本店。ごったがえす地下のフロアで、解禁されたばかりの越前がにをはじめ、焼きサバや永平寺のごま豆腐など福井県の食をPRする食品フェアが開かれていた。「ちょっと寄って行ってください! 私の顔覚えておいてね。私『むきむきみっちゃん』と言って、カニむきは日本一なんです。そして生まれは、か・に・座!」。にこにこと弾みのある声で、お客さんを呼び込みながら、両手でピースサインを向ける。常連客が言うには、それは「ピースサイン」ではなくて「カニ爪」だという話もある。 「私は越前がにの宣伝に来ました。越前がには世界で一番おいしいと言われています。この黄色いタグは黄金のタグです。きょうは、ゆっくりむきますからね」。そう前置きして、手にとった1杯の越前がに。腹の側を上にして皿の上に置くやいなや、2本の足を同時に関節からもぎりとって、一瞬でカニ足の筋を抜く。次の瞬間には、2本の足は二つに折られ、隣の皿に盛られた。この間、わずか5秒。ゆっくりのはずなのに、そこからは手順がよく見えない。90秒過ぎには、両方の足はなくなっていて「これが濃厚なんです」と言いながら、甲羅を半分に割ってかにみそを見せていた。
捨てられそうになった黄色いタグ
どうしてそんなに速くむけるのだろう? 「私はね、浜の近くで育ったので、小学生の時からカニをむいていたんですよ。ばあちゃんが行商をやっていて、足のとれたカニとか身の少ないカニとかいただいてね。もう舌が痛くなるくらいカニを食べましたよ。30歳過ぎたときに民宿を始めたんだけど、お客さんがカニをむけなくてね。まだ食べられるところがあるのに。もったいない。それから私がむいてあげることにしたのよ」。 すべての泊り客が食べる越前がにの殻をむく。多い時は1日100杯にもなるらしい。「何杯むいたかなんて、数えたこともないわ」。とにかくカニむきと言えば、この人なのだ。「むきむきみっちゃん」のニックネームは、宿の常連さんが付けてくれた。15年ほど前、京都のKBSテレビから取材を受けた。福井では京都の番組を受信できないので、録画したビデオを常連さんに送ってもらうことに。ビデオには番組名ではなく、「むきむきみっちゃん」と書いてあったことから、そう名乗るようになった。