冬の味覚ズワイガニ漁解禁、福井県「越前がに」の実力をみる
まず真水に20分浸けて、ゆっくりと締める。いきなり湯に放り込むと足が取れてしまうからだ。次いで真水から取り出された越前がにを煮立った大鍋に入れる。腹を上にして茹でると、かにみそが甲羅にたまると聞いたことがあるが、果たして、そのように鍋に入れられた。 秘伝とあって詳しくは教えてくれなかったが、茹で汁に望洋樓の工夫があるらしい。落としぶたをして、さらに20分。グツグツと音を立てながら、茹で上がりを待つ。白い湯気がもうもうと立ち上り、カニ特有の甘い香りが店内に広がる。鍋から取り出された越前がには、赤黒い色から鮮やかな真っ赤な色に変わっていた。見るからに美味しそうだ。
食べやすいようにと、カニの殻に包丁を入れたうえに、女将さんがさらに身を割ってくれる。真っ赤な殻と真っ白い身、そして濃い緑色をしたかにみそ。フォークとスプーンを手に食べる。ほどよい塩加減で味付けされた身はたっぷりで、みずみずしく、ふわっと柔らかい。口のなかでさらに旨味が広がる。 さらに殻に付いた身をフォークでたっぷりとほぐし、三杯酢で味を変えて楽しむ。1本、2本とカニ足を手に取り、無心に食べる。 最後に、潮の香りが豊かな「かにみそ」を木製のスプーンですくって口に入れると、もう十分に満足した。「これが本場、本物の味か」とうなってしまう。 生きたカニをその場で調理して食べるのと、茹で置きを食べるのでは、明らかな差がある。こんなにも違うとは想像にしなかったし、かえって冷凍にしてまで食べるのはもったいないと感じた。
むきむきみっちゃん
「望洋樓」では、食べやすく殻を割っていただいたので、食べることに集中できたけれど、自分でむくとなると大変そうだ。カニの「殻むき」が得意だという人は、そういないだろう。宴会などでカニを食べるとき、ほとんどといっていいほど、みんな無言になる。身をほぐすのに集中してしまうためだし、皿の上には、まだ食べられそうな身が残っている……。 「みんな下手なのよ。もうね、甲羅を捨てるとか、もったいない」。そう嘆きながらも、にこやかな表情をくずさないのは、「むきむきみっちゃん」の愛称で知られる、福井市の越前海岸沿いにある旅館「白浜荘」の女将板倉美津子さん(65)だ。カニの殻むきにおいて、この女将の右に出る人は、日本中どこを探してもいないだろう。なんせ、板倉さんは越前がにを、ものの50秒でむいてしまう「速むきの達人」なのだから。