監督解任で揺れるヴィッセル神戸の新体制への疑問と不安…“パワハラ謹慎中”永井秀樹氏のSD就任に問題はないのか?
しかし、ヴェルディの監督を突如として辞任した、昨年9月以来となる永井氏のサッカー界への復帰は大きな驚きとともに受け止められた。もっと踏み込んで言えば、賛否のうち「否」が大多数を占める状況が発表直後から生まれている。 永井氏に関しては辞任前から、一部週刊誌やスポーツ紙でパワーハラスメント行為が報じられていた。ヴェルディは辞任後もコンプライアンス委員会を通じて調査を進め、昨年末にJリーグへ提出した報告書のなかでパワハラ行為を認めた。 報告書に記された「サッカーの指導に不必要に攻撃的な言葉や暴言」「不適切な指導や不適切な取り扱い」「人格等を否定する言葉や暴言」をJリーグ側も認定。クラブの管理監督義務違反として、ヴェルディに罰金100万円とけん責処分が科された。 すでに監督を辞任しているという理由で、永井氏個人は処分の対象にならなかった。しかし、報告を受けたJFAの技術委員会は3月に入って、永井氏が持つ公認S級指導者ライセンスに対して、さかのぼって昨年12月から資格停止処分を科すと決めた。 期間は今年12月までの1年間で、同時にJFAが定める研修会や社会奉仕活動への参加も義務づけられた。資格停止処分にはJクラブの監督を務められない期間でしっかりと自分と向き合い、反省を重ねた上で、指導者としてだけでなく人間としても成長し、世の中に認められる形で復帰してほしいという思いも込められている。 スポーツダイレクターをはじめとする、クラブのフロントで要職を務める上で公認S級ライセンスは関係ない。しかし、ルール上で問題ないといっても、倫理的には時期尚早と受け止められる。失敗した人間が再チャレンジできる社会が求められるといっても、資格停止決定からわずか11日後の人事にはどうしても拒絶反応が先だってしまう。 実際、ツイッター上ではこんなつぶやきが飛び交った。 「永井秀樹を登用するヴィッセル神戸の人事はリーグ、世間の流れに逆行し、パワハラを肯定していると捉えられます」 「ヴィッセル神戸はパワハラに対してどのようなお考えを持っておられるのでしょうか?監督やコーチじゃないから問題ないとお考えなんでしょうか?」 「もちろん過去の過ちは誰でもあるが、あまりにも早い現場復帰。採用する側も、当人の判断にも疑問を抱かさざるを得ない」 「楽天の三木谷氏がウクライナ支援をいち早く打ち出したのには日本のトップ企業の経営者としての見識を感じた。弱者に対する一方的な暴力は絶対に許せない、と。ではなぜ、永井秀樹氏を容認した?」 ヴェルディでプレーした2016シーズンを最後に引退した永井氏は、翌年からヴェルディユース監督兼GM補佐に、2019年7月にはトップチーム監督に就任した。 シーズン途中から指揮を執った、1年目の13位こそまだ情状酌量の余地があった。しかし、続く2020シーズンのヴェルディもまったくJ1昇格争いに加われないまま12位に低迷し、2021シーズンも辞任した時点で11位に甘んじていた。 黎明期のヴェルディ川崎を含めて7クラブでプレーした財産として、独自の人脈は持っているだろう。しかし、現状では指導者としての実績を含めて、神戸が望むスポーツダイレクターとしての資質を有しているかどうかは未知数と言っていい。 いま現在のクラブ名称になった1995シーズンから28年目で28人目の指揮官、リュイス新監督のもとで神戸は24日から再始動する。しかし、オンライン署名サイトでは、永井氏のスポーツダイレクター就任撤回や、あるいは一時凍結を求める活動も始まった。再建を目指す船出は不可解な人事と相まって、いきなり風雲急を告げている。 (文責・藤江直人/スポーツライター)