中国包囲に再結集する「アングロサクソン帝国」の賞味期限
2021年11月、アメリカのジョー・バイデン大統領と中国の習近平国家主席が初めてオンラインで首脳会談を行いました。海を隔ててはいますが、2つの大国はいずれも日本にとって隣国といえるでしょう。 建築家で、文化論に関する多数の著書で知られる名古屋工業大学名誉教授・若山滋氏は、太平洋を隔てた隣国であるアメリカと、かつて世界の覇権を握っていたイギリスを合わせて「アングロサクソン帝国」と考え、「この帝国は賞味期限を更新し続けている」と指摘します。若山氏が独自の文化力学的な視点で論じます。
400年の覇権
「驕れる者久しからず」と『平家物語』の冒頭にあるが、人も企業も国家も、ついついおごってしまう時期があるものだ。僕らはその「盛衰」の歴史の波間を泳いでいる。 前回、近年の帝国主義的拡大を試みた国家には賞味期限があると書いた。たとえば日本の明治維新(1868年)から太平洋戦争の終結(1945年)まで77年、ドイツ帝国の成立(1871年)からナチスドイツの滅亡(1945年)まで74年、ロシア革命(1917年)からソビエト連邦崩壊(1991年)まで74年、いずれも「70~80年の賞味期限」であった。そして現在、戦後日本は太平洋戦争の終結から76年、中国は中華人民共和国の成立から72年で、そろそろ賞味期限にさしかかっている。台湾海峡の波が高まっているのはそのためだろうか。 またポール・ケネディの『大国の興亡―1500年から2000年までの経済の変遷と軍事闘争』(鈴木主税訳・草思社1988年刊)を参照して、16世紀以後の大国ハプスブルグ家(スペイン)と、そのあとのルイ14世からナポレオンまでのフランスの、ヨーロッパ大陸覇権国家としての賞味期限は、それぞれ150年ほどであったとした。そこには国家という人間集団エネルギーの「社会バイオリズム」というようなものがあることを感じる。 しかし二つの重要な国が抜けていた。イギリスとアメリカである。 大英帝国こそは近代世界史において、まさに帝国中の帝国であり、現在はその地位を受け継いだアメリカが帝国的な力をもっている。この二つの国に触れないわけにはいかないのだが、実はそこに、イギリスとアメリカを連続的に考える「アングロサクソン帝国」という視点を考えていた。 これまで「大英帝国」や「アメリカ合衆国」や「アングロサクソン」についてはさまざまに論じられてきたが、「アングロサクソン帝国」という言葉は聞かない。この視点をとることによって、近代文明400年から500年にも及ぼうとする長期覇権としての帝国像が浮かび上がるのだ。 もちろん現在は、移民の国であるアメリカ合衆国におけるアングロサクソン人種の割合は高くない。しかし英語を基本とする文化と社会制度においては、市場(資本主義)、議会(民主主義)、スポーツ、背広とジーンズ、ビフテキとハンバーガーなどなど、アングロサクソン的伝統が主流をなしており、それが今の僕らの、すなわち戦後日本人の生活の基本ともなっている。実はその点こそが、イギリスからアメリカへのリレーをアングロサクソン帝国とする、文化論としての本論の趣旨である。つまりこの帝国は「英米文化帝国」といいかえてもいい。