中国包囲に再結集する「アングロサクソン帝国」の賞味期限
第3期・「東西冷戦の雄・高度工業技術」
第一次世界大戦以後、英国に代わってアングロサクソン帝国のリーダーとなったのはアメリカである。アメリカの工業は発展をつづけ、T型フォードで知られるベルトコンベアによる大量生産の時代となる。やがて大恐慌を経て第二次世界大戦に突入、その結果、世界帝国の地位がイギリスからアメリカに移ったことが誰の目にも明らかとなった。日本は、この覇者交代の時期に、世界の力学を読みあやまって英米に戦争を挑み、真珠湾攻撃ではアメリカの主力艦船に打撃を与え、マレー沖海戦では東アジアの英国海軍を壊滅させたものの、結局アメリカの物量には勝てず、大変な悲劇に見舞われたのである。 第二次大戦後の米ソ冷戦時代、アメリカの工業技術と経済は発展をつづけたが、ベトナム戦争は、南北戦争と大恐慌につづく、アメリカの歴史における大きな転換点であり、アングロサクソン帝国の価値観も変化せざるをえなかった。また冷戦中は、ソビエトとの軍事技術における競争を余儀なくされたが、その間に、民生用の工業技術においては、日本に追い上げられ追い抜かれた。 しかし東側の社会主義勢力は、主としてその内部矛盾からしだいに力を失い、冷戦時代は終わりを告げた。第一次世界大戦の終結(1918年)からベルリンの壁崩壊(1989年)までの71年がアングロサクソン帝国の第3期である。つまりこの帝国にも、前回論じた150年あるいは70~80年ほどの「社会バイオリズム」が感じられるのは、世界史における各国の相互性を考えれば当然のことかもしれない。
第4期・「中国包囲に再結集・情報技術」
一時は、資本主義と民主主義は世界の大潮流であり、アングロサクソン帝国は盤石とも思えたが、すべての社会主義国、宗教原理主義国が崩壊したわけではない。 中国はトウ小平の「改革開放」政策によって、共産党独裁のまま、経済を資本主義化して急速な発展をとげ、現在では「一帯一路」政策によってその文化と経済を世界に広げようとしている。それが軍事的な拡大にもつながって世界の脅威となり、アングロサクソン帝国の脅威ともなっているのだ。 アングロサクソン帝国の第4期は、この急膨張した中国という存在に対峙している。漢字文化という異質性を抱えた歴史的大国であり、近代には主としてイギリスによって半植民地状態におちいり、毛沢東という強い個性によって社会主義国家としてまとめあげられ、文化大革命と改革開放の時代を経て急膨張した中国という巨大なエネルギーの存在に対峙している。 またアフガニスタンからの撤退が示すように、アメリカ合衆国の力だけで世界をコントロールすることは限界に達している。アングロサクソン帝国の第4期は多国連携による「対中包囲時代」とならざるをえない。いわゆる「クアッド」も、日本を除くアメリカ、オーストラリア、インドはかつて大英帝国の一部であり、「オーカス(英、米、豪)」や「ファイブアイズ(英、米、豪、カナダ、ニュージーランド)」のことも考えれば、対中包囲に当たって、アングロサクソン帝国が再結集しているとも取れる。 もちろん日本は中国の隣国である。しかしアメリカも太平洋を隔てた隣国であり、列島に置かれた米軍基地を見れば、1945年の敗戦以来の支配力が現在も残っていることは明らかだ。いわば隣国以上である。米中の対立が大きな懸案となるのは歴史的必然だろう。 第1期が「航海海戦技術」に、第2期が「産業革命技術」に、第3期が「高度工業技術」に依拠していたのに対して、第4期は「情報通信技術」に依拠している。また第1期、第2期には、アングロサクソン帝国は「海の帝国」であったが、第3期には「空(航空機を重視)の帝国」となり、第4期には「電子(あるいはサイバーあるいはインターネット)の帝国」となりつつある。