パナソニックから日本の人事を変える 世界中の現場で学んだ「人事は運用が8割」
人事の「モダナイゼーション」に取り組み、会社を超えて成果を共有したい
――先ほどは「パナソニックをきっかけにして日本の人事を変えていきたい」というお話がありました。木下さんは、現在の日本企業の人事部が抱えている課題をどのように考えていますか。 大きく三つの課題があると考えています。 まず、日本企業の人事は「Why」を大切にするべきだと思っています。一つひとつの取り組みや施策について、「なぜそれをやるのか」を掘り下げて考えるということです。 Whyの反対は「How」、つまり方法論ですね。人事はとかくHowに引っ張られがちですが、そもそも自分たちは何をしたかったのか、顧客にどんな価値を届けたいのかを考えた上で、必要な方法論に落とし込むべきではないでしょうか。 人事は業界を超えて先進事例を導入しやすい一方で、流行に飛びついてしまうところもあります。制度を導入することが目的化しているようではもったいない。トップレベルでも現場レベルでも、Whyを語り合うことが何よりも重要だと考えます。 二つ目は、「運用が8割」。制度を生み出すだけではなく、現場の従業員のために運用しきることが大切です。 評価制度を例に取って考えてみましょう。しっかりと成果を出している人が正しく評価されることには誰も反対しません。ただ、人事部門が分布を気にして「1や2の悪い評価もちゃんとつけてください」と現場にお願いすることがあります。現場の管理職としては、当然ながら身近な部下に悪い評価をつけるようなことはしたくない。結果、分布を意識するがゆえに、昇格したばかりの人や育児休業から復帰したばかりの人などが低評価になってしまうのです。 これは、本当にWhyに沿った運用なのでしょうか。管理職が厳しい評価をつけづらいのなら、厳しい評価をすべき人にどう向き合うかを支えるのも人事の運用上の工夫でしょう。「運用8割」は、人事のさまざまな側面に当てはまります。本当にやりたかったことと実態が違う。そんな現場の現実を変えていく工夫をすべきです。 三つ目は、人事の生産性を高めること。これは人事だけの問題ではありませんが、日本の間接部門は生産性が低いと感じています。私がかつて所属した外資系企業では、「間接部門がやめるべきこと」を明確に決めていたため、人事部の人数は毎年減っていきました。 足し算でやるべきことをどんどん増やしていると、どんな会社でも人事が大忙しになってしまいます。最近では人事のオペレーションを変えていくためのツールが続々と登場していますし、海外のオフショアをうまく使うこともできるでしょう。従来のやり方をよしとせず、見直していくことで、人事が本当にやるべきことだけに集中できるはずです。 ちなみに私は、パナソニックに入社して素敵な言葉と出会いました。パナソニックでは生産性拡大ではなく「モダナイゼーション」、つまり近代化という言葉を積極的に使うのです。生産性と聞くとコストカットをイメージし、現場では防衛本能が働きがち。それに対して、やり方を近代化して進化させるというモダナイゼーションは前向きに捉えられますよね。 最新の技術を取り入れ、自分たちの業務をどんどん楽にしていく。私自身もそんな人事のモダナイゼーションに取り組み、会社の枠を超えて積極的に成果を共有していきたいと考えています。
プロフィール
木下 達夫さん(パナソニック ホールディングス株式会社 執行役員 グループCHRO) きのした・たつお/P&Gジャパンで採用・HRBPを経験。2001年日本GEに入社、北米・タイ勤務後、プラスチックス事業部、金融部門などで人事の要職を歴任。2012年よりGEジャパン人事部長。2015年にマレーシアに赴任し、アジア太平洋地域の組織人材開発、事業部人事責任者を務めた。2018年12月にメルカリに入社、執行役員CHROに就任して海外出身のエンジニアが多数活躍する組織作りを推進。2024年7月にパナソニック ホールディングス入社、執行役員 グループCHROに就任。