サヘルローズさん、無視や暴言…いじめの経験 「死にたい」と母に伝えたら… 「学校はすべてじゃない」
高校時代「やっと信じられる大人に出会った」
――そんなつらい環境が変わってきたのはいつごろだったのでしょうか。 高校の定時制で、私の人生を変える恩師に出会ったんです。当初は中学時代のいじめの恐怖心から誰とも関わらないようにしていましたが、ある日の食堂で、国語の先生が隣に座って「どうしていつもそんなに怯えているの?」と声をかけてきてくれました。 これまでの体験を少し話すと「もう頑張らなくていいんだよ」と、肩をポンポン叩いてくれました。「周りを気にせず、自分のやりたいことをやり続けなさい。そうすればあなたの味方がいつか必ず現れるから」って。「信じられる大人にやっと出会った」と思いましたね。 その恩師は、私が「大学に行きたい」と言うと、毎日授業の1時間前に来て受験勉強に付き合ってくれました。他人をプラスに見る思考もその恩師に養っていただきました。 ――つらい時代を思い起こさせてしまって申し訳ありません。今、いじめを受けている子供たち、あるいはそのご両親にアドバイスはありますか。 いじめについて相談できるところ、人、方法を教えてくれる大人が私にはいませんでした。今は国や自治体、NPO法人など相談窓口がいくつかあるので、そこにアクセスするのも一つの方法だと思います。 伝えたいことは、「今通っている学校がすべてじゃない」ということ。フリースクールや通信教育などで学ぶ方法もありますし、つらかったら学校に行かなくたっていいんです。生きていたら必ずいいことがあるので、未来を信じ、とにかく生きてほしい。 もし学校に居場所がなければ、図書館にいてもいいと思います。中学時代の私の安らぎの場もそうでした。人は裏切ることもあるけれど、知識は裏切りません。そのありがたみは大人になってから分かります。 私は世界の偉人たちの自伝をよく読みました。私のヒーローはチャップリンとココ・シャネル。二人とも貧しい子供時代を過ごしながら、大成功した人。彼らの人生をなぞりながら、苦しくても前を向く勇気をもらっていました。 ご両親には、子どもの絶対的な味方でいてほしいです。頑張って、頑張って、それでも無理だと思ったとき、最後に頼るのは親です。学校に行かないことを否定するのではなく、選択肢は色々あることを伝えてあげてほしいです。「いつでも頼ってくれていいんだからね」という雰囲気づくりをしてあげることが大切だと思います。 「死」は最後に思いつく手段で、それまでに子どもは「助けてほしい」というシグナルをいっぱい発しているはずなんです。 周囲の大人は、シグナルの初期段階で気づいてほしいし、あなたが生きていること自体が、誰かの励ましになっていると伝えていただきたいです。また、傍観者も、「助けてくれない周り」として同罪に見えることがある、と思います。 確かに「今ここで助けたら、次は自分がひどい目に遭うかもしれない」という恐れがあるのも分かります。それでも、もしクラスの中で誰かが苦しんでいるのを見たら、どうか手を差し伸べてあげてほしいと思うんです。誰かを見放すということは、最終的には自分自身を見放すことになるんじゃないかと思うから。誰かを助けることは、自分自身を大切にすることにもつながるはずです。 ――もし、学校や教育委員会が動いてくれないのであれば、法務省の人権相談窓口もあります。そこは学校に対して調査する権限を持っているので、相談してみるのもいいと思います。相談するのも勇気がいると思いますが、ひとりで抱え込まないでほしいです。 いじめを看過しない社会になってほしいですね。 (監修:藤川大祐 千葉大学教育学部教授) ◇ 〈たかまつなな〉笑下村塾代表取締役。1993年神奈川県横浜市生まれ。時事YouTuberとして、政治や教育現場を中心に取材し、若者に社会問題を分かりやすく伝える。18歳選挙権をきっかけに、株式会社笑下村塾を設立し、出張授業「笑える!政治教育ショー」「笑って学ぶ SDGs」を全国の学校や企業、自治体に届ける。著書に『政治の絵本』(弘文堂)『お笑い芸人と学ぶ13歳からのSDGs』(くもん出版)がある。