「男性として終わったような気がした」婚活や妊活で直面する男性壮年期の「勃起の悩み」 #性のギモン
「勃起改善薬=好色」という偏見が男性を受診から遠ざける
勃起に対する男性の心理は非常に繊細だ。ある日突然「勃たない」状況に襲われ、そんなはずはない、自分はまだそんなに老いていないと焦れば焦るほど勃たなくなる。大学病院で診療にあたる白井医師は「診療にはカウンセリングの側面もある」と話す。 「バイアグラのようなお薬を使いましょうというのと並行して、勃起不全の患者さんに対しては、ゆっくりと話を聞いてあげなければいけないんです。勃起がうまくいかないことによる心の傷もありますから。やっぱり、勃起がうまくいかないのは苦しいし、悲しいことなんですね」 白井医師によれば、勃起障害の多くは薬で改善する。国内ではバイアグラ、レビトラ、シアリスといった薬が承認されている。併用してはいけない薬や、心筋梗塞や脳梗塞から半年以内は服用できないなどの禁忌があるので、必ず医師が処方しなければならないが、安全性は確立されている。 にもかかわらず、多くの男性にとって勃起の悩みで病院に行くのはハードルが高い。その理由は、ED治療薬に対する男性自身の偏見だ。 筆者は40代の男性だが、今回の取材にあたり同世代の知人に「勃起薬を使っている人を知らないか」と声をかけた。すると複数の人から「お前もまだまだやるね」とニヤッとされた。筆者が自分で使うためにリサーチしていると思われたのだろう。「バイアグラ=好色」という思い込みを目の当たりにすると同時に、勃起障害に苦しむ人への視点が欠けていることに気づかされた。
「予告されるセックス」でEDに 「プレッシャーをはずす工夫を」
妊活のプレッシャーからEDを発症するケースもある。 都内に住む自営業の伊地知太郎さん(仮名、40代)には、5歳の長男がいる。半年ほど前、妻から「2人目がほしい」と言われた。妻はまもなく40歳になる。タイムリミットを考えると、行動に移すならば今しかない。そう相談を受けた。2人目がほしいという思いは、伊地知さんも同じだった。 その日を境に、排卵日を狙い撃ちして性交渉が予告されるようになった。それと同時に、伊地知さんはEDを発症した。伊地知さんはこう話す。 「その日が近づくと、数日前から気分が落ち込みました。そして、本番になると勃起しない、それを繰り返したんです」 妻への愛情を失ったわけではない。以前と比べて回数が減ったとはいえ、性交渉はある。だが、夫婦共同でミッションを遂行しようと思えば思うほど、自分の思うようにいかなくなった。 「パートナーへの愛情とはまったく別の問題です。ダメだったらどうしようという不安が余計にプレッシャーになったんだと思います」 伊地知さんは、友人の紹介でオンラインクリニックを受診。妻ははじめ、オンラインで処方された薬を飲むことを不安がったが、きちんと医師の問診を受けたことで、その不安は払拭された。 白井医師は、伊地知さんのケースについてこう話す。 「うまくいかなかったらどうしようという予期不安が原因になって、かえって勃起が起こりにくくなることはめずらしくありません。どこかで悪循環を断ち切らないといけないので、まずは薬を使ってみましょうというのは有効だと思います。 私のところに来る(妊活中の)患者さんには、パートナーの方に『排卵日を教えないで』とお願いすることもあるんですね。プレッシャーを与えないためです。場合によっては、シリンジ法(採取した精子をシリンジで膣内に注入する)をすすめることもあります。子づくりとセックスを分けるということです」 夫婦の営みを大事にしたい場合は、スキンシップを取るようにお願いするという。 「スキンシップに対しては、男性と女性で違いがあると思います。女性は、自分のことをきちんと女として見てくれて、スキンシップが取れていれば、必ずしもパートナーが勃起しなくても、満足するところがあると思うんですね。ところが、男性の場合、勃起しないとセックスにならないという感じで、最初から諦めてしまう場合がけっこうあるんです。勃起して挿入、射精までできないなら何もしない、妻に指一本触れないという方がけっこういるんです」 0か100かにこだわると余計にプレッシャーを高めてしまう。予期不安を感じそうなときに「薬を手に入れてでも」と考える男性はじつは少数派で、たいていは「病院に行ってまですることないか……」と諦めてしまうのだ。