ますます深まる謎…ウイルスから考える「まぎれもない生物」と「明らかな無生物」のはざま
「特徴」であって、「条件」ではない
ここで強調しておきたいのは、図「地球生命の5つの特徴」に示したものは、あくまでも地球生命の「特徴」であって、「条件」ではないということです。 これらを完全に満たさないと「生物」とよべないのなら、たとえばラバ(ロバと馬の交雑種)やオスのライガー(ライオンと虎の交雑種)も、生殖能力を持たないため、生物ではなくなってしまいます。 これらの動物やウイルスをみると、生命とは何かを定義して、生物と非生物を完全に区別することはできないように思えてく るのです。
ウイルスの起源はどこなのか
ウイルスがバクテリアやアーキアなどのまぎれもない生物と、明らかな無生物とのあいだにあるとしたら、ウイルスはどこから来たのでしょうか。 生命誕生までの化学進化の道筋と考えられているもので最もポピュラーなのは、RNAワールド(RNAを代謝に利用)→RNPワールド(タンパク質を代謝に利用)→DNPワールド(核酸情報をDNAに保存)→共通の祖先、といったものです。ウイルスはこの道筋のどこかで生物と分かれて(図「ウイルスの起源はどこか?」)、独自の進化をとげたのでしょうか。 代謝を行わないということから、図「ウイルスの起源はどこか?」のAのように、RNAワールドに進む手前で生物と分かれたとも考えられます。しかし、それでは矛盾が生じます。ウイルスは自分でタンパク質を合成できません。もし、ウイルスがRNAワールドの前に分かれたのだとしたら、RNAより前にタンパク質が存在し、ウイルスはそれを利用できたことになり、RNAワールドの考え方に反するからです。 ただ、次のRNPワールドやDNPワールドは、タンパク質を使ったシステムですの で、タンパク質(カプシド)を身にまとったRNAまたはDNAが、他の独自の代謝システムを持ったものに寄生してウイルスとなった可能性はあります(図「ウイルスの起源はどこか?」のB)。 あるいは、共通の祖先が誕生したあとの生物進化の中で、タンパク質を用いた代謝を自分で行うことを放棄し、他の生物に寄生してその役割を任せるようになったのかもしれません(図「ウイルスの起源はどこか?」のC)。代謝機能を捨てるというのは一見「退化」にも見えますが、不必要なものを切り捨てるのも立派な「進化」ですので(たとえばヒトのしっぽ)、もし、Cが正解ならば、ウイルスは通常の生物(原核生物)から進化したといえます。