【林業経営は大規模化すべきではない!】振り返るべき国有林事業の“失敗”、好調な木材需要に隠された非効率な作業の実態
木材流通には無駄が多い。特にトラックへの積み降ろし回数が少ない方が断然よい。そのような意味で、大型の盤台のメリットを活かして、トラック積み込み前に丸太をある程度仕分けることは、流通改善に役立つのだ。ただ単に山元の伐木集造材作業に視点を当てるだけでなく、流通・販売まで含めた広い視野から考察する必要がある。 もう少し余分に視野を広げてみよう。盤台にはおびただしい端材やチェーンソー屑が堆積する。その処理も大変なのだが、次第に腐ってくるとおびただしいカブトムシが発生する。 今にして思えばこれらを採集して、売り出せばよかった。少しでも国有林野事業の赤字解消に貢献できただろう。思い足らず残念だった。木材生産だけが林業ではないのだ。
民有林に応用できないノウハウ
しかし、こうした国有林が培ってきたノウハウは、民有林には応用できなかった。民有林の経営規模は圧倒的に小さいので、大面積皆伐などできるはずがない。また、多数の森林所有者が使用する林道を大規模な施設で塞ぐわけにもいかない。 結局、山中に突如出現したビルディングのような盤台は、好調な木材価格に支えられ、国有林ならではの特殊な経営環境の中で咲いたあだ花でしかなかった。 現在主流となっているのは、環境面への配慮から比較的規模の小さい皆伐地において、作業道を開設し、高性能と称する林業機械を使用した伐木・造材・集材・運材であり、樹木そのものが並材に代わったので、盤台で厳密な採材(玉切り)をする必要もなくなった。 しかし、高価な割には稼働率のよくない高性能林業機械を見ていると、過去に見た巨大な盤台をつい思い出してしまうのだ。日本林業はいつの世も非効率から脱しきれない。 ちなみに、少ない林道でできるだけ多くの伐木・造材・集材・運材ができるという意味では、一考の余地がある。日本のような山岳地形では、林道の密度が高くなるとそれだけ山地災害を誘発する危険が増すのである。 温暖化による線状降水帯の発生がますます多くなる予想があるなか、林道や作業道が少なくて済む架線集材法をもっと研究する必要があると思う。先日発生した松山城の土砂崩れと同様な災害は、山岳地帯の森林ではいつも起きているのだ。 一般の製造業では工場内で最新のプラントを導入して、大量生産による生産性の向上が可能である。そこに大規模化の意味がある。しかし、それを単純に林業に持ち込むのは危険である。 大規模経営には、高い木材価格が前提であり、組織要員の肥大化、現場技術の硬直化が潜んでいて、常に柔軟な経営思考を強いられるのである。
中岡 茂