豊川悦司「俳優は人間を形作る仕事」プライベートの経験が引き出しになる
人物を読み解くことから始める役作り
具体的にはどのように役作りをするのか。 「人物を読み解くことから始まります。若い頃からずっとそうなんですが、自分がやりたいというよりは『これをやってくれ』って頼まれたことに対してどう自分が向き合うかが僕は楽しいです」 最新作となる原泰久原作による映画『キングダム2 遥かなる大地へ』では山﨑賢人演じる信の初陣の総大将・麃公(ひょうこう)を演じるが、彼をどう読み解いたのか。 「麃公という人はプレイヤー気質で、みずから先頭に立ち戦うことによって人を惹きつけるタイプの将軍です。人を呼び込むというより、周りにいる人々が知らず知らずに彼について行ってしまう」 将軍という役柄からセリフの数自体はそれほど多くはないが、きわめて重要な役であり抜群の存在感を醸し出している。 「彼が持っている魅力を表現しようとすると表情とセリフしかないわけで、自分の中でどういう表情でそのセリフを言うのか?みたいなところですね。俳優は自分の体を自分でコントロールしながら何かを表現するわけですが、麃公という役をいただいて『僕が演じるならどういうものになるのが一番良いのかな?』って探りながら作って行く感じです」 それには役と自分自身との共通点を探すことから始めるという。 「その探した共通点から全体像を考えることもあります。麃公の場合、あまり自分を信用していないところが共通する気がしました。大将軍と言われても自分ではそうは思っていない。たまたまその位置にいるけど、戦うことが大好きでそれを生き甲斐にしているだけで。戦場で生れ落ちて親も身内もなく、ただ戦いの毎日の中で育ってきたという経歴から想像すると、戦うことがとても自然であり人生そのものであったという気がします。それでいて相手に対してのリスペクトもきちんと持っている人なのではないかと。そういう感覚が映像で少しでも出ればと思って演じました」
役者として大切なプライベートの時間
役者としてオンタイムばかりではなくプライベートを大切にすることを心がける。 「仕事をしているとプライベートの時間がなくなってしまいますが、俳優は人間を形作る仕事だと思うので、人間としての時間がすごく少なくなってしまうのは本末転倒じゃないかなと。ちゃんとプライベートで人としてさまざまな経験をして、それを引出しにして演技の現場に持って行く。だから仕事ばっかりしているとダメになって行くと思うんです。プライベートで人と触れ合う時間が減ると、僕はちょっと辛いですね」 今後の展望を聞いた。 「自分がやりたいと思っているものにめぐり逢えれば、それを全身全霊でやりたいですが、めぐり逢わなければ、仕事しなくても良いのかな?と思います。俳優は役との出会い、監督との出会い、本当にそこは『運』によるところがすごく大きくて、それも含めての俳優の人生だと思うので、そこは流れに任せるしかないですね。今目の前にあることを一生懸命にやるということに尽きると思います。それを人が見ているのか? 神様が見ているのか? それはわからないですけど、今あることにきちんと向き合っていないと次は『絶対にない』ですから」 (写真と文・志和浩司) ■豊川悦司(とよかわ・えつし) 大阪府生まれ。『3-4×10月』(90)、『12人の優しい日本人』(91)、『きらきらひかる』(92)などの映画で注目される。その後も『Love Letter』(95)、『八つ墓村』(96)、TVドラマ『NIGHT HEAD』(92~93)、『愛していると言ってくれ』(95)、『青い鳥』(97)などの主演作が大ヒットし、人気、実力ともに日本を代表する俳優に。主な映画出演作に『愛の流刑地』『サウスバウンド』『犯人に告ぐ』(07)、『今度は愛妻家』『必死剣 鳥刺し』(10)、『一枚のハガキ』(11)、『娚の一生』(15)、『後妻業の女』(16)、『パラダイス・ネクスト』(19)、『ラストレター』『ミッドウェイ』(20)、『いとみち』『子供はわかってあげない』(21)、『弟とアンドロイドと僕』(22)など。公開待機作に『あちらにいる鬼』(22)、『仕掛人・藤枝梅安』(23)がある。最新作の映画『キングダム2 遥かなる大地へ』(佐藤信介監督)は7月15日公開。