「言葉が先行する選手にはなりたくない」引退する岡崎慎司が誇示したベテランの矜持【コラム】
「ベテランにしかできないことは絶対あると思うんですよ」
「言葉が先行するような選手にはなりたくなかった」 現役ラストマッチを終えた後、シント=トロイデン(STVV)の岡崎慎司はそんなことを口にしていた。ベテランとしての役割を担うことを了承しながらも、言葉だけで伝える存在になるつもりはなかった。 【PHOTO】“ミラクル・レスター”影のヒーロー!現役引退を発表した岡崎慎司の高校時代から現在を厳選ショットで振り返る!2004-2024 23年10月、シント=トロイデンのカフェでゆっくりと話をさせてもらう機会があった。昨シーズンはインサイドハーフとしてフル稼働。今季はまたストライカーとして勝負をしたいと話をしていた。チーム内での立場は理解している。監督からの若手選手への手本というニュアンスで期待されているものがあることもわかっている。 「自分がベテランになってから思いますけど、ベテランにしかできないことは絶対あると思うんですよね。ただ一つ見逃しちゃいけないのは、チームを僕のリズムに持っていくのではなくて、このチームにあるリズムの中で自分が回していくっていうのが鍵だと」 ベテラン選手が監督から中心軸に置かれて、そこからチームを構築していくやり方もある。だが、それだと若い選手が生き生きしないのではないか、と。若手が生き生きとサッカーをする中にベテランがいるというチームをイメージしていた。 「ここは若い選手たちを育てながらのチーム。自分を中心にされてやるより、今の流れに自分が入る方がいい。入ればやれるとは思うんです。いかにそこに入っていくかっていうのが自分の今の調整で今年の挑戦」 若い選手中心のチームには勢いがある。前への圧倒的な意欲がある。しかし、あらゆる変化に対応しきれるだけの経験がない。難しい状況でも盲目に前ばかりを目指してしまう。そんなチームに適度な落ち着きをもたらし、交通整理ができる選手がいると、スムーズに攻守が回りだす。 「そうですね。いいところでパスを受けて、ボールを落として、それからゴール前に入っていく。シンプルかもしれないけど、何気ない守備のポジションとかは自分にしかできないことでもある。練習のミニゲームでも、俺のチームの方が勢いが出ていいプレーがでていると思うんです。声かけでもポジティブな声掛けとか、そういうのを駆使していってますから。『あいつのチーム、いつもみんな生き生きしてるな』みたいなふうになれば、自分の価値が生まれるかなって」 ボールがないところでの動きや選手の能力を引き出す関わり合いというのは、なかなか観察されづらいものではある。統計として数字でも出てこない。だが、それがないとチームは回らない。 膝の具合がよくなってきたら、きっとそうした《味のある》プレーでチームをうまく循環させてくれていたに違いない。でもそれができないジレンマもあっただろう。
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