町のパン屋激戦時代――コスト上昇でどう生き残る? #くらしと経済
行列ができても不安定要素がある、理想を追う小規模店
ここ数年、売り場と厨房を合わせて10坪以下の都市型小規模店も増えている。 2007年創刊の専門誌『Bakery book』編集長の黒木純さんは、最近はあまり人を使わず、一人あるいは夫婦でパン屋をやるスタイルも多いと言う。 「個人でやっているお店は、自分の身の丈に合った規模とペースで、理想のパンづくりを追う。たとえば国産の小麦や天然酵母にこだわる。そんなスタイルも一つの流れです。ただし、個人店を続けていくには、コストや手間の点から、ある程度商品の種類を絞らざるをえません。また、都心部で店をやる方は、賃料が高いため、やや高い価格で売らないと商売として成り立たない。たとえば国産小麦を使うことに価値を見いだす客層がいる地域など、食にこだわりがあり、出費をいとわない住人が多い地域でないと、なかなかうまくいかないかもしれません」
実際、始めてみたものの、パン屋の経営は想像していたより大変だったことがわかり、数年で閉めてしまうこともある。大型のオーブンなど、開店時に一定の設備投資が必要でもあり、日々の営業では仕込みにも時間がかかる。重労働のわりには単価が安く、なかなか利益を出しにくいことが理由だ。今回の取材でも、お客さんが列をつくる人気の小規模店に取材依頼をしたところ、「開店して5年目ですが、毎日必死ですし、毎年『今年はやっていけるだろうか』と考えているほどです」と取材を断られたケースもあった。 では、個人でやっているのはどんな店なのか。
売り場面積3坪の極小店、体力的な厳しさも
中央線沿線の西荻窪駅のすぐそばにある「Le Petit pain I.U」(ル・プチ・パン・イ・ウ。小さなパン屋イ・ウの意)は、2階建ての超極小一軒家を利用したパン店だ。2階の厨房、1階の売り場、ともに3坪(約10平米)で、客が一人入るだけで店内はいっぱいになる。一番人気はバゲット。あんバター300円、トリプルチーズ380円、ミルクフランス300円など、フランスパン生地の商品が主体だ。