町のパン屋激戦時代――コスト上昇でどう生き残る? #くらしと経済
ダイユーは自社のコムギノホシの経営のほか、他社のパン屋の起業コンサルタント・事業支援も行っている。主にコムギノホシのようなファミリータイプの郊外型パン屋を手掛けており、開業支援をしたパン屋は全国で1200店を超える。開業支援したパン屋はほぼすべて順調に経営を続けていると星野社長は言う。ただし、すべてのコンサル依頼を引き受けるわけではない。 「開業の相談があると、徹底的にその商圏の市場調査をします。わが社でまとめたデータによると、平均して日本人は一日あたり47.5円分のパンを食べていますが、兵庫県を中心とした西日本は比較的消費額が大きく、東北地方は低くなっています。東京都では約66円、山形県では約35円と、地域差があり、その差は倍近くもあります。出店を希望している商圏に何店競合店があり、どのくらいの集客が見込めるのか。調査結果によっては、出店は厳しいとお答えする場合もあります」 そこで出店可能と見込めた場合、起業支援のコンサルティングに踏み出す。そのとき、もっとも重要なのは経営におけるコストの把握だ。起業する方には原価表の計算式を渡して、正確に原価把握をし、すべて数値化できるようアドバイスしているという。
原価の把握と売り上げを伸ばす秘訣
たとえば、総菜パンは具材が多く、調理にかかる時間もあるため、原価率が高くなりがちだ。かといって、そのかかった分をすべて価格に反映すると、高価格になってしまう。だとすれば、そちらを安くする分、他の手がかからない商品を上げる必要もある。そんな商品を全商品の中でどのくらいの割合にするのか。商品の内訳による利益率の計算や、原材料費以外の人件費や光熱費、賃料などの外的要因も正確に計算し、どのような商品構成にすれば収益につながるかを把握する。
「パン屋をやるには、ただパンを作ればいいというわけではありません。作って売ることのすべてを数値化し、把握できる経営者にならなくてはいけない。たとえば、コストや(閉店時間までに売れ残ってしまった)フードロスを抑えるため、すべて売り切ってしまうよう数量調整をする方もいますが、お客さまが夕方に来店した際、品切れになっていると、がっかりして、また来てくれなくなってしまうおそれもあります。ですから、対売り上げ3%くらいのロスが出てしまうのは、致し方ないともいえます」 そうしたコストや経営のポイントと同時に、売り上げを伸ばすアドバイスもしている。 仕掛けの一つがトレイを大きくすること。トレイを大きくすれば、商品を取るスペースも増えるため販売額が上がる。あるいは、郊外型店舗では駐車場の役割も大きい。車で来店した場合、車で運べるため1回あたりの購入額が増えるからだ。また、店内滞在時間を伸ばす工夫もある。 「店内滞在時間が短いと、客単価が上がりません。そこで、お客さまにできるだけ長く店内に滞在していただき、『どれにしよう』と迷っていただく。そのためには、商品の陳列の仕方には工夫が必要ですし、購入した方に無料コーヒーを提供するといった方法もあります」(星野さん) 星野さんは、こうした経営指導はあくまでも郊外型のファミリー向けパン屋に適したものであり、安定的に経営が継続できることを目指していると言う。 「最近は高価格の店もありますが、私たちが目指しているのは日常的に買いに来てくれる店。生活に根ざしたリーズナブルな店であれば、地域の人たちが繰り返し買ってくれるからです」