町のパン屋激戦時代――コスト上昇でどう生き残る? #くらしと経済
営業は金、土、日曜の週3日で、水、木は仕込みに充てている。置いてあるパンは、金曜日は約20種、土日は約30種。金曜日は平均300個、土日は350個作り、売り切れると店を閉める。 イ・ウは、元看護師だった宇津木郁美さんが服部栄養専門学校、大手パン屋での修業を経て2019年12月に開業した。西荻窪駅のすぐそばに狭小物件を見つけ、2階に平窯を設置。オープンして間もなくコロナ禍に突入したが、その状況でなお連日客が押し寄せる人気店となった。 ただ、昨今の物価高は原材料のコスト上昇に直結し、悩ましいと宇津木さんは言う。 「材料費の高騰で何度か価格を上げましたが、地元の常連さんは納得してくれました。でも今使っているオーガニックのチョコレートは、9月に1キロ当たり1000円値上げになります。それを価格に転嫁すると、かなり高くなってしまう。かといって、材料を変えたら、味が変わってしまいますし……」 パン屋を始めてみて実感している厳しさもある。一つは体力。営業日は夜中の2時過ぎに厨房に入り、11時の開店から18時の閉店までずっと店舗にいる。現在50代後半だが、いつまでこのペースでやれるかわからないと考えてしまう。
それでも頑張り続けられるのは、自分のパンを心待ちにしてくれている常連さんがいるからだと宇津木さんは言う。西荻窪は、自身の生活にこだわりを持つ人たちが多い町と言われている。飲食店が総崩れだったコロナ禍を経ても、イ・ウという個人店が生き残っているのは、吟味した素材と技術でおいしさを追求し、町の人たちの好みに合うパンを送り出せていたからといえる。 「パンづくりに興味を抱いたのは20年ほど前。新婚旅行先のフランス領タヒチで食べたパンのおいしさに感激してから。開業して4年半経ち、常連客もできました。この先、体力的に厳しくなったら、週に1日だけ常連さんのためだけにパンを焼き、他の日は店を貸すなど他のことに使ってもらおうかな、とか考えていますね」 今、まさにパン屋は多様化の時代。手頃な価格の焼きたてパンを望む人もいれば、少々高くても高品質な材料を使ったパンを求める人もいる。その地域の人たちが求めているのは、どんなパン屋なのか。パン屋側がしっかり見極めていく必要がありそうだ。 --- 篠藤ゆり ライター。さまざまな雑誌で、著名人インタビュー、ルポ、紀行文などを執筆。著書に『旅する胃袋』『岡本太郎 岡本敏子が語るはじめての岡本太郎伝記』『音よ、自由の使者よ。』『シニア婚活』など。 --- 「#くらしと経済」はYahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。生活防衛や資産形成のために、経済ニュースへの理解や感度をあげていくことは、今まで以上に重要性を増してきています。一方で経済や金融について難しいと感じる人も。くらしと地続きになっている日本や世界の経済について、身近な話題からひもとき、より豊かに過ごすためのヒントをユーザーとともに考えます。