町のパン屋激戦時代――コスト上昇でどう生き残る? #くらしと経済
「多くの人にとって、高価なパンを毎日は食べられないでしょう。そこへいくと、うちのパンは、毎日食べられる価格です。『ニコラス精養堂のパンでいっかぁ』と言われるような店でありたい。『ピンチはチャンス』をモットーに、状況に合わせて柔軟に商売を方向転換してきたから、長く続けてこられたのだと思います」
市場規模拡大の一方、過去最多の倒産
この十数年、パン屋の多様化が進んでいる。一つ400円を超えるクロワッサンを売る店もあれば、食パン1斤2000円という高級店も珍しくなくなった。パンの支出金額もこの10年おおむね増え続け、総務省の家計調査によると、2010年に比べて2020年には12%近く上がった。また、矢野経済研究所の調査でも、国内パン市場の市場規模は現在も微増が続き、2026年度には1兆6000億円規模になると予想されている。 一方、パン屋の倒産も増えた。東京商工リサーチによると、2023年度のパン屋の倒産(負債1000万円以上)は過去最多の37件で、前年度比85%増(2022年度は20件)だった。内訳を見ると、従業員5人未満の小規模店が8割を占め、円安による光熱費、原材料費の高騰などが倒産の原因とされている。 さまざまな味わいが楽しめるパン屋が増えるのは消費者にとって歓迎すべきことだが、町のパン屋にとっては生き残りが厳しくなってきたともいえる。では、生き残っていくにはどんな店づくりが必要なのだろうか。
東京・調布市の仙川駅から徒歩5分。「コムギノホシ」仙川店では朝10時時点で大勢の客でにぎわっていた。店内に大きな厨房があり、従業員は10人。ペットを連れてイートインで食べられるテラス席のほか、7台の駐車場もある。コーンパンは158円、薄皮つぶあんぱんは178円、天然酵母の食パンは298円、ベーコンレタスサンドは448円。基本的には手頃な価格の商品が並ぶ。 「お子さんが好む100円程度のパンから、お年寄りに好まれるものまで、すべての層が満足する商品を置くようにしています。お子さんが好むパンは低い位置に置き、目に入りやすくするなど、配置も工夫しています」 そう語るのが、同店を運営する株式会社ダイユーの星野理絵社長だ。コムギノホシは都内に4店舗を展開。いずれも都心からやや離れた住宅地にあり、郊外型の店舗だ。