136日ぶりに無観客で再開したプロボクシング…約140万円の赤字もそこには多くのドラマが…意義ある一歩を踏み出す
異色の30歳台のデビュー戦対決となったスーパーフェザー級4回戦もKO決着となった。小暮経太(32、中日)が豪快な右フック一発で中根啓太(35、天熊丸木)をキャンバスに這わせた。 「リングに上がったときに浮かんだのは感謝の気持ち。天国にいる7人の友達、兄、父…そして今応援してくれている仲間へのありがとう、という気持ちでした」 試合後、衝撃の告白を行った。バイク仲間を事故で7人もなくし、兄も17歳の頃、過労死した。自らも引きこもり失踪するなど、10代から20代にかけて「自分に何ができるのか。満たされなくて」と人生の“迷い人“になった。その頃、ボクシングに出会った。29歳で中日ジムへ体験入門した際、アルコール依存症だった父の孝典さんが、付き添い一緒に練習をしてくれた。だが、その父は、昨冬、61歳の若さで亡くなった。この日は、父が練習で使っていたシューズを履いてリングに上がった。 名古屋発祥のコメダ珈琲店でバイトしながらのボクサー生活だが、新型コロナの影響で営業短縮と人員削減を余儀なくされたことで収入が減った。夜の皿洗いとのダブルワークで、なんとかしのぎ、睡眠時間を削りながら、決してあきらめず、過酷な減量をもクリアしたのは、亡くなった人たちへの思いだった。岐阜にある父の墓前に勝利を報告するという。 小暮は、ボクシングを「生きる理由」と言った。 一方、敗者となった中根は、ダイエット目的で32歳で始めたボクシングにのめりこみ、昨年11月に34歳でプロテストに受かった。この日のリングは、年齢的に「最初で最後の」新人王だった。「もう試合はなくなってしまうのかなと思っていたので開催してもらったことがありがたかった」。妻も3歳の子もいるオールドルーキー。共働きのサラリーマンで、土日は、子供の世話と家事の担当だったが、今回は前日計量後からのホテルでの隔離でできなかった。 「嫁に負担してもらって申し訳ない。早く帰って家事をやらないと」 中根は、「次のことは今は考えられない」という。