136日ぶりに無観客で再開したプロボクシング…約140万円の赤字もそこには多くのドラマが…意義ある一歩を踏み出す
5試合にはそれぞれのドラマがあった。プロボクシング界は意義のある一歩を刻んだ。 中日本プロボクシング協会会長の中日ジム東信男会長は「手探りでしたが、なんとか無事に終わって次につなげられたかな」と疲れた表情を見せた。 当初、この試合は、中日ジム内で行う予定でいたが、ジムでは感染予防対策が万全にとれないため、刈谷の会場を借りての開催となった。そのため運営経費は、選手のファイトマネー6万円×10人、会場費、抗体検査費、隔離宿泊費など、約140万円もかかった。今回は、日本プロボクシング協会(JPBA)が、そのほとんどを援助してくれたが、テレビ中継もなく、すべて持ち出しの赤字興行である。リング設営も協会員が手弁当で行った。 そこまでしても開催にこだわったのは、「新人王戦は、伝統ある大会。全国的にみんなが覚悟してやることに意味がある。興行再開のニュースでボクシングを見直してくれて、また練習生が増えてくれれば」という切実な願いである。だが、「十分な練習ができない」という問題を抱え、選手の仕事先が「試合するな」と止めるケースもあったという。 今月26日には同会場で緑ジムの矢吹正道が日本ライトフライ級王座決定戦を戦うが、750人収容可能の会場で半分しか入れることができず、緑ジムの松尾敏郎会長は、「関係者だけで100人になるので有料入場は220、230人程度に絞る。苦しい赤字興行です」という。 東会長も無観客から次の一歩に進まなければ、衰退の危機が迫ると訴える。 「こういう状態が続くとプロモーターが損してまで興行をやらなくなる。ボクシングが終わってしまう」 8月9日の中日本新人王の準決勝は無観客。9月21日の決勝は人数を絞っての客入れ興行が予定されている。
現場に足を運び試合を管理した日本ボクシングコミッション(JBC)の安河内剛事務局長は、「今日は失敗できなかった。何事もなく選手がリングを降りたことは良かったが、まだ感染状況はおさまっていない。再開したが、これでよかったとはまだ言えない。今後、もっと厳しい基準でやらねばならないのかもしれない。まだ記念すべき一歩とは思っていない」と厳しく総括した。今後は、この日出場した選手にアンケートを実施して今後の参考にしたいという。 JPBAと協議を重ねて再開のガイドラインを作成した。19日の沖縄の興行から客入れも解禁されるが、人数制限の大幅な解除は政府、行政の指針変更があるタイミングまで待たねばならない。興行が通常に戻らねばプロボクシング界が危機を迎えることは承知しているが、杜撰な管理で強行して新型コロナのクラスターを会場で引き起こしてしまえば、それこそボクシングが死んでしまうことになる。日本のプロボクシング界は、苦しい葛藤の中、手探りで再出発したのである。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)