136日ぶりに無観客で再開したプロボクシング…約140万円の赤字もそこには多くのドラマが…意義ある一歩を踏み出す
1ラウンド。サウスポースタイルの松本がトリッキーにスイッチして右のパンチで最初にダウンを奪うと、すぐさま星野もカウンターを決めてダウンを奪い返す。ラウンドの合間のインターバルでは、各ジムのスタッフが総出で次亜塩素酸を使い、ロープとコーナーを消毒した。3、4ラウンドは互いにスタミナが切れ明確なポイントがないまま試合が終了。2―1の僅差判定で松本の勝利がアナウンスされると、その瞬間、松本は、両手を突き上げて「よっしゃ!」と大声を出した。だが、これもガイドラインで禁じられている行為。 セコンドに「おまえ、それダメだぞ」と注意された松本は、「やっちゃったなあと。感情が爆発してしまいました」と頭を下げた。 昨年11月のデビュー戦は判定で敗れ、「負けたままでは終われない」との悔しさを持って、新人王にエントリーしたが、3月29日に予定されていた試合が延期になった。 試合後、2メートルのソーシャルディスタンスを保った状態で取材に応じた松本は、「ジムで練習もできない時期があり、試合ができるのかとモチベーションを保つことも難しかった。会員、トレーナーの皆さんの協力のおかげでギリギリだけど勝つことができた。世話になった先輩が熊本の大雨で被災したのに応援してくれて…」話している途中で号泣した。 3年前に「亀田興毅を倒したら1000万円」の企画に応募。オーディションのスパーリングでボクシング経験者に敗れたが、そこでボクシングに魅了されジム通いを始めた。 「無観客で応援がないので寂しい気持ちもあったが、セコンドの声が聞こえて集中することができた。でも早く元に戻って欲しい」 プロなのだ。ファンの前で戦いたいのが本音である。 フェザー級4回戦の第2試合は、宮崎裕也(23、薬師寺)が1ラウンド37秒で山田竣介(伊豆)をTKOで下した。この日、MVP表彰があれば、彼が選ばれているだろう。ゴングと、同時に右フックで最初のダウンを奪うと猛ラッシュを仕掛けて、今度はワンツーから返しの左フックで試合を終わらせた。 「KO決着になるとは思っていたけれど。どんなパンチで倒したかよく覚えていない」 佐賀唐津出身で甲子園を目指した元高校球児。元WBC世界バンタム級王者、薬師寺保栄会長に惹かれて入門。宅配の仕事をしながらジムに通っているが、デビュー戦はKO負けしていた。2度の抗体検査で陽性が出ると試合ができなくなるため、この数か月は、密集を避け、買い物にも細心の注意を払ったという。