「神が姿を変えているのか…」94歳“伝説の大道芸人”が人々を涙させた「あまりに神々しすぎる踊り」 病で体が動かない中、命を削って踊り続ける理由とは
演目の間には、薬の副作用で眠りそうになってしまう場面もあったが、紀さんが耳元で音楽を流すと、身体が自然と反応したのか踊り出し、芸人魂を見せつけた。 クライマックスでは、紀さんに支えられながららせん階段を上って観客に見得を切り、バケツの水を被るパフォーマンスを披露。観客から万雷の拍手と「ギリヤーク!」「日本一!」という掛け声や、おひねりが飛び交った。マイクを持ったギリヤークさんは、感極まった様子で「母さん、父さん、日本一の大道芸人になりましたよ」と声を絞り出した。
■これが神の「やつし」か 観客たちにも話を聞いた。ギリヤークさんの活動初期から公演を見続けてきたという、演出家の小島邦彦さんと舞台俳優のそのだりんさんは、活動を継続していることがそもそもすごい、と感想を口にする。 「僕は73歳になるんですけど、20歳くらいの頃からずっと観てたからね。90歳でクローズだろうと思っていたけど、まだあるっていうのが本当にすごい。(公演中に)寝ちゃうところもすごいね」(小島さん)
「(昔のギリヤークさんは)激しくて、ぴょんぴょん飛んでました。あんなことしてたらひざが悪くなるって思っていました。でも、(車いすでの公演でも)寂しいとは思わないです、元は変わらないからね。100歳までやってください」(そのださん) 美術家の橋本悠希さんは、この日の舞台に飾られて存在感を放っていた、ギリヤークさんの人形を制作した方だ。舞踏家の人形制作をしているうちにギリヤークさんのことを知り、「絶対にこの人の人形をつくりたい」と、魂を込めて形にしたのだった。橋本さんは、ギリヤークさんの魅力をこう話す。
「歌舞伎の演出で『やつし』というものがあります。本当は高貴な身分なのに、みすぼらしい姿に身を落とす、というもの。最初にギリヤークさんの公演を見たとき、これが神の『やつし』か、と思いました」 ほかの観客たちも、ほとんどの方が今回の公演に満足したと答えた。筆者も同じ感想で、終演後にギリヤークさんに「素晴らしかったです」と伝えると、小さく微笑み返してくれた。 ■生き方そのものがギリヤーク尼ヶ崎 しかし、当の本人はどうだろうか。ギリヤークさんはかつて報道番組で、パーキンソン病の発症後に行った公演の感想を、「悔しい」と話していた。