「女が金にがめついからだ」「うちの娘はなぜ安い?」中国で結納金が高騰する歪んだ背景
● 「女ががめついからだ」 高額結納金を非難する男たち 李研究員は、彩礼をはじめとした結婚費用の高額化がとくに農村の若い男性にとって結婚への最大の障害になっていると分析する。 中国では婚姻件数が急速に減っており、少子化の一因と指摘されている。男女ともに結婚しないことにはさまざまな理由があるが、男性側はまず彩礼の高額化をやり玉にあげる。ネット上では「女が金にがめついからだ」などと女性側への非難があふれている。彩礼は、中国で先鋭化する男女間の断絶や意見の衝突の最前線ともいえる。 中国政府は、彩礼の高額化が婚姻件数の減少と少子化の一因と認識している。 2021年5月に公表された中国共産党中央と国務院による「産児政策適正化と長期的な人口の均衡と発展に関する決定」は、すべての夫婦に3人目の子どもの出産を認めた。決定は「結婚に関する因習、高額な彩礼など社会の不良な気風に対する管理を行う」とも言及した。 党中央政治局会議はこの決定を出した際、「人口高齢化への対応は、高い質での経済発展を実現し、国家安全と社会の安定を維持する重要な措置だ」として少子高齢化への強い危機感を示した。
● 自身の失政を棚に上げて 表層の現象を問題視する政府 中国共産党と中国政府が毎年初めに発表する「1号文書」でも、2023年にはこんな表現があった。 「高額な彩礼や冠婚葬祭を派手に行うことなど重点領域の問題をとくに管理する」。 1号文書のテーマは2004年以来、20年連続で三農(農業、農村、農民)問題であり、共産党政権が食料確保を重視していることが伝わる。 1号文書での彩礼への言及は過去にもあったが、2021年からは3年連続となる。また2023年の1号文書には前年に続いて「農村の婦女児童の権利を侵害する違法犯罪行為を厳しく取り締まる」という表現もあった。彩礼と人身売買が同一線上で取り上げられているといえる。 共産党政権は、彩礼高額化の対策として規制や宣伝工作の強化を重視する。しかし、高額化の原因は、男女間の人口の不均衡や、農村での貧弱な社会保障、女性側が不利となる離婚時の条件など多岐にわたる。 共産党政権は、現代化した社会における女性側のニーズをうまく拾い上げているとはいえない。彩礼の高額化についても残念ながら同様の構図となっている。
中澤 穣