「女が金にがめついからだ」「うちの娘はなぜ安い?」中国で結納金が高騰する歪んだ背景
データの出所が不明の「彩礼地図」も少なくないが、福建省や山東省、浙江省など上位の顔ぶれはおおむね同じだ。 国家統計局によれば、2022年の農村での1人あたり年間可処分所得は2万元をわずかに上回る程度だ。東京と同じかそれ以上の物価水準である北京や上海などならともかく、農村の男性にとって結納金は年収の何倍にも相当し、大きな負担となる。 ● 結納金への考えの違いから 婚約破談や自殺に至ることも 2023年春ごろには、中央政府のシンクタンク、国務院発展研究センターの李佐軍研究員が発表した研究が、中国メディアで広く引用された。 ビッグデータを駆使したというこの研究によると、2000年以降、全国であった婚姻のうち79%で彩礼が支払われた。89%の山東省を筆頭に、河北、広東、安徽、甘粛などの省はこの比率が高く、一方で37%の上海や51%の北京などが低い。このほか新疆ウイグル自治区やチベット自治区などの少数民族地域も比較的低く、漢民族と文化が異なることが要因とみられる。彩礼の平均額は浙江省で22万元、福建省が19万元と高額である一方、北京は6万元だった。 さらにこの研究によると、結婚当事者の女性側は「男性側の誠意の表現」などとして61%が彩礼を重視する一方、男性側は15%しか重視していない。
彩礼の額などを巡る意見の食い違いによって婚約が破談になったり、結婚後も家庭内不和の原因になったりすることは「一般的」であり、40%以上の家庭が彩礼を発端とする不和があったという。男性側が彩礼を払えずに相思相愛の男女が結婚できず、男女のどちらかが自殺したり、事件を起こしたりする悲劇が定期的に中国メディアを騒がす。 ● 引く手あまたの都市男性に比べ 農村男性は圧倒的に不利な境遇 中国政府は彩礼を「俗習」「因習」などと呼んで規制しようと躍起だが、高額化は政府の政策によって生じた予期せぬ副産物という側面もある。 彩礼の高額化は2000年代から始まり、問題として広く認識されたのは2010年代に入ってからだ。かつて中国人がまだまだ貧しかった2000年ごろまで彩礼の多寡は誰も気にしていなかったという。 別の取材で知り合った河北省の50代の女性は、1990年前後に結婚した際、彩礼は「米1袋」だったと笑った。この女性は「昔は彩礼なんてすごい田舎の因習というイメージだった」とも振り返る。 高額化をもたらした要因の1つは1人っ子政策だ。よく知られているように、中国では1人っ子政策によって人口の男女比が不均衡となった。2020年に実施された第7回国勢調査によると、男性は女性より約3500万人も多い。1人っ子政策は1980年代から厳格化された。彩礼の高額化は、この時期以降に生まれた世代が結婚適齢期を迎えたタイミングと一致する。