「女が金にがめついからだ」「うちの娘はなぜ安い?」中国で結納金が高騰する歪んだ背景
これに2000年代から本格化した経済発展が加わる。都市化が進んで多くの女性が経済の発展した都市に向かうが、家を継ぐ男性は農村にとどまる。 中国では都市戸籍と農村戸籍の差は大きい。そのため中国の結婚市場では、都市戸籍を持つ男性は引く手あまたとなる一方、農村の男性は圧倒的に不利となり、多額の彩礼を積まなくては結婚相手を見つけられない。貧しい家庭の男性ほど多額の彩礼が必要になるため「結婚によって貧困化する」(李研究員)という現象が往々にして生じる。 ● 「うちの娘はなぜ安いのか?」 売買婚と化す結納金の高額化 先の李研究員は中国メディアの取材に「経済社会の構造の変化に伴う金銭至上主義の思想が影響している」と話す。中国メディアは「結婚の市場経済化」「結婚の物質化」などという表現も使う。高額の彩礼によって成立する結婚が、女性を売り買いする事実上の売買婚であるーー。こうした指摘は中国国内でも少なくない。 一方、女性の父母は、長年育てた娘を嫁がせる「経済的保障」として彩礼を受け取り、自身の老後の生活資金に充てることが多いという。中国では社会保障制度が事実上、都市戸籍と農村戸籍で切り離されている。農村では社会保障が極めて貧弱という事情も、彩礼の高額化の背景にある。
彩礼の多寡は女性の親のメンツにもかかわるという事情もある。女性側の家庭がほかの家庭が受け取った額と比較して「うちの娘はなぜこんなに少ないのか」と高額な彩礼を求めるケースが少なくないという。女性の父親が金額にこだわって話がこじれたものの、最終的には女性の母親などがなだめて話がまとまるというパターンはよく聞く。 以上がおおむね李研究員の研究に沿った彩礼高額化の理由だが、分析から抜けているのは、農村のみならず、上海や北京など大都市でもかなりの比率で彩礼が支払われていることの理由だ。 彩礼はすでに「田舎の因習」ではない。この点について、最近結婚したという先の女性(北京在住)は「わたしの結婚でもやっぱりもめた」と笑い、高額化の別の要因として、離婚時の条件が女性側に不利だと認識されていることを指摘した。 中国の離婚率は日本よりも高く、2020年は53%に達した(ただし、離婚手続きのハードルが上がった2021年には離婚件数が大幅に下がった)。 一方で、離婚時には家事などの家庭内労働は十分に考慮されず、財産分与が女性側に不利と指摘される。そうしたなかで「彩礼は将来の離婚に備えた資金」(同女性)という性格も帯びてきているという。