「女が金にがめついからだ」「うちの娘はなぜ安い?」中国で結納金が高騰する歪んだ背景
一人っ子政策による男女人口比の不均衡と2000年代以降の経済格差が相まって、中国の結婚市場では都市戸籍を持つ男性に人気が集中しているという。一方で、農村部の貧困男性は「彩礼」と呼ばれる多額の結納金を支払えず、人身売買で連れてこられた女性を嫁にするといったことも横行しているようだ。※本稿は、中澤 穣『中国共産党vsフェミニズム』(ちくま新書)の一部を抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● 人身売買の背景に横たわる 地域による貧富の格差 中国のネットメディアなどによると、江蘇省や浙江省、山東省など比較的豊かな地域は、人身売買の買い手側となってきた一方、雲南省や貴州省、四川省などが被害者の供給地となってきた。 とくに董集村を含む江蘇省徐州市には雲南省から連れてこられた女性が多く、1990年前後には年間数千人が雲南省から連れてこられて結婚させられたとの報道もある。 徐州市は豊かな江蘇省の中では比較的貧しいため、遠くから無理矢理にでも連れてこなければ結婚相手を見つけられないという。 北朝鮮人女性やベトナム人女性のなかには、自身も人身売買の被害者でありながら、後に故郷から若い女性を連れてくる加害者側に転じるケースも多いと指摘される。 中国当局も手をこまねいているわけではない。2022年3月の全国人民代表大会(国会に相当)閉幕後、李克強首相(当時)は記者会見で「深刻な女性の権利侵害事件に心を痛め、憤っている」とわざわざ言及した。当時話題になっていた「首に鎖をつながれた女」の事案(編集部注/2022年、董集村で首に鎖をつながれた雲南省出身の女性が発見されて事件化した)を念頭にした発言だ。
人身売買への関心は、この数年一貫して注目されている彩礼(結納金)の高騰とも結びついた。人身売買の横行と彩礼の高額化は表裏の関係にあるともいえる。結納金など結婚費用を捻出できず結婚相手を見つけられなければ、どこかでさらわれてきた女性を安く買うしかない、と考える人が存在するからだ。 ● 農村での結納金は 年収の何倍にも相当 彩礼は日本の結納金にあたり、結婚の際に男性側が女性側に払うお金だ。中国ではここ数年、彩礼の高額化がネット上で関心を集めてきた。女権ブームの文脈でも彩礼を受け取るべきか否か、彩礼をどう考えるべきかという議論が続いてきた。 最近結婚したという中国メディアで働く女性は「彩礼は嫁姑問題と並んで、ネット上で閲読量が稼げる定番のネタ。こんな調査はないけど、中国人の関心のある社会問題のトップ3に必ず入るだろう」と話し、さらに「だれもが頭の中に1つの彩礼地図が入っている」と笑った。 「彩礼地図」とは中国全土の地図にそれぞれの省での彩礼の平均額などを記したものだ。中国のネット上では何種類もの地図が簡単にみつかる。 たとえば中国のネットメディア「頭条」によると、湖南省や山東省などでは結納金の平均が10万元(約200万円)を超え、福建省と浙江省では20万元以上という。一方、北京は3万元、広東省も4万元にとどまる。