勘違いから生じた第3次世界大戦が近づいている
シェークスピアの小説には、しばしば奇妙な人物が登場する。有名なのがサー・ジョン・フォルスタッフだ。シェークスピアの「ヘンリアド」と呼ばれる4部作に出てくる人物のことだ。 【この記事の他の画像を見る】 この人物は、表と裏をあわせもち、味方なのか敵なのかわからない。正義を装い、賄賂を要求する。いわば破廉恥漢である。しかし、憎めない性格で、世知辛い世界をしっかりと生き抜く力をもっている。戯曲や小説には、話を盛り上げるためにも、この手の憎めない「輩」が必要だ。
しかし、このような手合いが現実に政治を司るとどうなるであろうか。ちぐはぐを通り越して、てんやわんやになるかもしれない。 ■戦争の世紀だった19世紀のヨーロッパ 19世紀後半のヨーロッパは戦乱に明け暮れた。クリミア戦争(1853~1856年)、イタリア独立戦争(1859年)、普仏戦争(1870~1871年)など、年がら年中戦争をしていたといえる。もちろん、これが産業を潤し、株価をつり上げ、景気を支えたことも間違いない。
とくに、戦争を使って自国の利益を図るということもしばしば行われた。戦争の仕掛け役と仲裁役を交互に使い分けることで、結構利益を得ることができたので、こうして利得をあげようというわけだ。 カール・マルクスは1866年、イタリア独立戦争をめぐる墺仏(フランス・オーストリア)戦争の中で、フォルスタッフの役割を演じた国としてプロイセンをあげている。そしてこう述べている。 「プロイセンは、一方では好戦的な熱情に平手うちをくわせておさえながら、同時に武器をとれと呼びかけなければならなかった。プロイセンは、武器を分配しながら、同時にそれを使用しないように警告しなければならなかった」(マルクス「とりちがえ」『マルクス=エンゲルス全集』大月書店、13巻、458ページ)。
アメリカのバイデン政権は、ウクライナ戦争が始まった当初から、19世紀のプロイセンの役割を担ってきた。戦争の拡大を憂慮しつつ、一方で強力な武器供与と資金援助を行ったのである。 もちろん、最初は短距離ミサイル、そして強力な戦車、そして強力な飛行機といった具合に小出しであった。それは仲裁役も兼ねていたからだ。 そのたびに、戦局が変わるのではないかと期待しつつ大勝利に浮かれ、やがて戦局が悪化すると、ウクライナの好戦的態度を和らげつつも、またより強力な武器を提供し、この戦争は負けるわけにはいかないと、挑発していった。