芥川賞受賞の高山羽根子さん「別のプレイボールかかった感じ」
第163回芥川賞は、高山羽根子(たかやま・はねこ)さんの「首里の馬」と遠野遥(とおの・はるか)さんの「破局」の2作の受賞が決まった。東京都内のホテルで15日夕に開かれた記者会見で、高山さんは「ほんとに平たく言うとホッとしたというか。もうあとちょっと書かせていただけるというか、もう少し書いて大丈夫と思えることができたのが一番ホッとしました」と語った。作家・津島佑子さんの娘で太宰治の孫である石原燃さんの「赤い砂を蹴る」は受賞を逃した。 【動画】第163回 芥川賞に高山羽根子さんと遠野遥さん、直木賞に馳星周さん
沖縄が舞台、首里城火災に「びっくり」
高山さんは1975年生まれ。多摩美術大学美術学部を卒業後、2010年の「うどん キツネつきの」が第1回創元SF短編賞の佳作に。同年、その作品を収録したアンソロジー「原色の想像力」でデビューした。直木賞は3度目のノミネートでの受賞となった。 「首里の馬」の舞台は、沖縄県の首里。首里といえば昨年10月、首里城で正殿などが全焼する火事があった。「書いている途中のことだったのでびっくりして、ちゃんと仕上げないといけないなと思って書きました」。 今年、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、リモートワークが浸透した。「今、技術を使えばある程度はつながることができるが、怖さや不安、不穏さというものは絶対出てくる。そういうものも含めて書いていけたらという気持ちがすごく強い」。 生まれた富山の話を書きたい気持ちは「すごくありる」と語るが「私は(現地に)行かなければ書けない。このご時世ではちょっと難しい」とこぼす。「今、縁あって東京に住んでいるんですが、東京は築地もそうですし、虎ノ門もそうですが、2020年の前後であちこちの風景がものすごく変わっていて、それを記録したい」と東京を舞台にした作品への意欲を口にする。 野球が大好き。今の状況を野球で例えてほしいとの問いかけには、「今、それこそ別のプレイボールがかかった感じ。これがゴールではぜんぜんなくて、またフィールドのはしっこに立たせていただくことができた、という感じですかね」と肩をすぼめつつ、神妙に語った。 (取材・文:具志堅浩二)