解散は五輪後? 迷走するコロナ対策 日本政治はウイルスに打ち勝てるか
民主主義がコロナに打ち勝った証を示せるか?
通常国会は1月18日に召集される。例年であれば来年度予算案の審議が優先されるところであるが、今年はコロナ対策の特別措置法(特措法)改正が先行処理される予定である。営業時間短縮や休業の要請に応じた店舗への補償、要請に応じない場合の罰則新設などが論点となるだろう。
今年の政局の最大の焦点は、衆議院解散と自民党総裁選である。衆院議員の任期は10月21日で満了し、菅首相の自民党総裁としての任期は9月末で満了する。 まず解散の時期であるが、昨年11月頃までは、今年に入ってすぐの通常国会での冒頭解散説もささやかれていた。菅政権が高支持率を維持しているうちに解散するのが有利だとの読みがあったためである。しかしコロナの第3波が到来し、来年度の当初予算案と本年度の第3次予算案をセットとする「15か月予算」の審議を急ぐ必要が出てきたことから、その可能性はほぼなくなった。昨年末に支持率が急落したことも、解散時期を先延ばしする方向に働くであろう。 予算成立後の3月末頃の解散という選択肢もないわけではないが、デジタル庁創設法案など重要法案の審議があることを考えると、次のタイミングとして有力なのは通常国会会期末の6月である。7月に行われる東京都議選との同日選という説もある。しかし、都議選のために会期延長が難しいことや、連立政権パートナーの公明党が衆院選と都議選の同日選には消極的とみられることから、この可能性もあまり高くないかもしれない。 そうなると、東京五輪・パラリンピック後の解散の可能性がもっとも高そうである(予定では、オリンピック開会式は7月23日、パラリンピック閉会式は9月5日)。9月末の総裁任期前に解散する場合は、菅首相は、衆院選で勝利し、その成果を訴えて総裁再選を狙う戦略に出るであろう。反対に、総裁選で勝利し、その勢いで衆院選を戦う戦略に出る可能性もある。いずれにせよ、パラリンピック閉会と衆院議員任期満了の間の2か月足らずの間隙を縫って迅速に事を進める必要がある。 ただし、コロナ感染が収束の兆しを見せないと支持率も低迷し、総裁選も総選挙も菅首相の思うようには進まないかもしれない。特に、五輪・パラリンピック中止という万が一の事態になれば、菅首相の目算は大きく外れるだろう。場合によっては別の総裁候補を担ぐ動きも出てくるだろうし、解散できずに任期満了総選挙となる可能性も排除できない。 最後に、2021年の日本政治に突きつけられた課題について述べておきたい。それは「コロナと民主主義」というテーマである。中国がウイルスの封じ込めに成功したといわれているように、国民の自由を尊重する民主主義よりも、国家による強権的な規制を可能とする権威主義体制の方が感染症対策には有利だとの見方がある。実際、民主主義の象徴のような米国や英国において、コロナ感染者や死者は増加の一途を辿っている。 しかしその一方で、最近は苦戦しているとはいえ、ドイツのようにウイルス対策に比較的成功している民主主義国も存在する。人命が大事なのはいうまでもないものの、人々の自由や多様性を奪うことの代償は大きいことも無視できない。権威主義国では情報流通が制限されるため、多くの人が不測の行動を取り感染が広がるおそれもある。 重要なのは、民主主義と権威主義のどちらがコロナに勝つのに有効な体制か、という問いではなく、どのような民主主義であればコロナに勝てるか、という問いであろう。2021年の日本政治は、民主主義がウイルスに打ち勝った証を示すことができるだろうか。
--------------------------------- ■内山融(うちやま・ゆう) 東京大学大学院総合文化研究科教授。専門は日本政治・比較政治。著書に、『小泉政権』(中公新書)、『現代日本の国家と市場』(東京大学出版会)など