解散は五輪後? 迷走するコロナ対策 日本政治はウイルスに打ち勝てるか
昨年は7年8か月に及んだ安倍晋三内閣が終わり、菅義偉(よしひで)内閣が発足しました。直面する課題は、世界的流行が収まらない新型コロナウイルス対策や今夏に延期された東京五輪・パラリンピック、さらに残り任期が1年を切った衆院選と自民党総裁選です。政局含みの展開も予想される中、政治学者で東京大学大学院教授の内山融氏に2021年の日本政治を展望してもらいました。 【年表】安倍政権「7年8か月」を振り返る アベノミクスから安保法制、コロナ禍まで
学問に人事コントロール的手法を適用する懸念
昨年9月16日、菅義偉内閣が発足した。発足当初は60%(調査によっては70%)を超える高支持率を記録し、順調な船出であった。 ところが、早々につまずきとみえる出来事が起こった。日本学術会議会員の任命拒否問題である。10月1日に菅首相は、日本学術会議の新会員について、会議が推薦した候補者105人のうち6人を除外して任命した。 これまでも菅首相は、人事権を活用して政府内のコントロールを図ってきた。第1次安倍内閣の総務相だったときに、自らの方針に異議を唱えた官僚を更迭したエピソードは菅首相自身が著書で語っているところでもある。学術会議会員の任命拒否も菅首相のこうした手法が現れたものとみることができよう。 しかし、学問の世界にこうした手法を適用することには懸念を禁じ得ない。任命拒否の理由について菅首相は「総合的、俯瞰的活動を確保する観点から判断をした」ということ以上の説明をしていない。詳細な理由が明らかにされていればまだしも、それが明らかにされずに任命拒否が行われると、学者の側としては、研究内容や社会的発言によって任命の可否が決まるのではないかとの疑念を持ってしまう。学術会議のみならず、公的な研究費なども影響を受けるのではないかとの危惧も出てくるだろう。そうなると、学者は研究や発言の際に政権の意向を忖度してしまうことになりかねない。こうしたことは自由な学問や意見の多様性を制約するおそれがある。 本来、自由で多様な学問はその国をより良くするために必要不可欠である。学者によって政府の政策や政治運営が批判されると、そのときの政権にとっては耳が痛いだろう。しかし、長期的に見れば、そうした批判を受け止めて鍛えられることにより、政策や政治は改善していく。逆に、誰も批判しなくては(「王様は裸だ」と言う人がいなければ)、政府は独善に陥ってしまう危険がある。そうした事態はすべての国民にとって幸せなことではないはずだ。 現在、学術会議問題の焦点は、同会議の組織改革に移っている。組織改革の議論の際には、自由な学問が国と社会の健全な発展にとって重要であるという大前提を忘れるべきではない。