「幼稚園みたい」な日本の高齢者デイサービスは誰のため? 個人の希望に沿った過ごし方ができるスウェーデン
宮本礼子・長谷川佑子「日本とこんなに違うスウェーデンの高齢者医療・介護」
内科医の宮本礼子さんと、認知症専門看護師としてスウェーデンで働いている長谷川佑子さんが、日本とスウェーデンの高齢者医療・介護の現状を比べながら、超高齢社会の日本のあり方を考えます。 【図解】ペットボトルのふたの開け方でわかるフレイルのサイン
多くの高齢者が「行きたくない」
認知症外来に通院している高齢者に「デイサービスに行きませんか?」と提案しても、「あんな幼稚園みたいな所には行きたくない」「そういうのは苦手です」「集団は嫌いです」「家にいるのが好きです」と、ほとんどの人が断ります。 デイサービスとは通所介護のことで、生活支援や社会参加を必要とする高齢者や障害者などが通います。目的は、心身機能の維持、社会的孤立感解消、家族の身体的及び精神的負担の軽減です。食事や入浴などの生活支援や、グループ活動による高齢者同士の交流があり、自宅から施設までの送迎も行います。 デイサービスの職員は利用者に優しく、笑顔で接するので、通っている人の多くは「とても楽しい。家にいるよりずっといい」と言います。一方、「まるで幼稚園みたいだな。自由がない」と言って見学だけで断る人、数回来た後に来なくなる人、仕方なく来ている人がいます。 家族は介護負担を減らしたくて、あるいは認知症の進行を遅らせたくて、デイサービスに通わせようとします。通いたくない人は通わずに済めばよいのですが、家族の希望からそうもいきません。
「集団」「娯楽中心」「子どもっぽい」…
少人数のデイサービスも少数ありますが、日本の平均的な高齢者デイサービスは次のような特徴があります。 1)職員が決めた日課を集団で行う 利用者は、職員が決めた日課を集団で行います。ラジオ体操などは集団の方が楽しいのですが、30人ほどでボールを転がすゲーム等では、人数が多いために利用者は「遠くてボールが見えない」「説明する職員の声が聞こえない」「ゲームが理解できない」「自分の番がなかなか回ってこない」等と言います(写真1)。 カラオケでは嫌いな曲もじっと聞いていなければならず、ビデオ観賞では興味がなくても見ていなくてはなりません。日本の認知症研究の第一人者である長谷川和夫先生(2021年11月死去)は、自身が認知症になってデイサービスに通った時に、「デイサービスは『何をしたいですか? 何をしたくないですか?』、そこから出発してもらいたい。ひとりぼっちなんだ。俺あそこに行っても」と述べていました。 2)娯楽中心 折り紙、手芸、カラオケ、ビデオ観賞、誕生会、四季の行事等、娯楽が中心の生活です。週に1~2回来る人にはよいかもしれませんが、毎日来る人には不自然な生活です。家にいれば、掃除・洗濯・買い物・炊事があり、新聞を読み、テレビを見て、隣近所の人と話すという普通の暮らしがあります。 オランダやドイツでは最近、従来型の娯楽中心のデイサービスに飽き足りない人が増えているため、農場を利用するデイサービスに変える所が増えています。 3)子どもっぽい 利用者は折り紙・塗り絵等に多くの時間を費やします。家族の人は「デイサービスでは、なぜ折り紙・塗り絵をするのですか?」と不思議そうに聞きます。室内の壁には利用者の作品が飾られ、まるで幼稚園です。 その他にも、歌いながら体操する「歌体操」がよく行われます。「うさぎとかめ(♪もしもしカメよ)」「むすんでひらいて」「かえるの合唱(かえるのうた)」などの童謡や「三百六十五歩のマーチ」「きよしのズンドコ節」が定番です。 高齢者が足踏みしながら「むすんでひらいて」をする姿は、見るに忍びないです。高齢者の尊厳が踏みにじられている気持ちがします。担当者も自分の親には「やらせたくない」と言います。 4)上げ膳据え膳のお客様扱い 施設基準の1人当たり最少床面積で建築される施設が多いので、椅子とテーブルを置くと室内はもういっぱいです。体操やゲームをする時は、椅子とテーブルを端に寄せて場所を作ります。利用者自身が食事の配膳・下膳をするには狭いので、職員が昼食、おやつ、お茶を配ります。 靴やコートの脱ぎ着、持参したバッグの片づけも職員が手を貸すために、ある高齢者はデイサービスを見学した後に、「あんな所に行くと、ますます何もできなくなる」と言ったそうです。家族も「靴が一人で履けなくなった」と言います。 スウェーデンのデイサービスの様子を長谷川さんに聞き、日本との違いについて考えたいと思います。(宮本礼子 内科医)