「銀河系外の恒星」の初クローズアップ撮影に成功 奇妙な塵の繭に包まれた巨大星
天の川銀河(銀河系)以外の銀河(系外銀河)内に位置する恒星のクローズアップ画像を観測史上初めて撮影することに、天文学者チームが成功した。この恒星は、超新星として爆発する寸前の状態にあることが明らかになっている。 【画像】撮影された大マゼラン雲内にある赤色超巨星WOH G64 ■死にかけの星 この恒星「WOH G64」は、これまでに見つかっている最大級の星の1つで、太陽の約2000倍の大きさがある赤色超巨星だ。天文学誌Astronomy & Astrophysicsに21日付で掲載された、今回の観測結果を報告する論文の筆頭執筆者で、チリ・アンドレス・ベーリョ国立大学の天体物理学者の大仲圭一は「今回初めて、天の川銀河以外の銀河にある、死にかけの星のクローズアップ画像の撮影に成功した」と述べている。 ■矮小銀河 WOH G64は、約16万光年の距離にある大マゼラン雲(LMC)内に位置している。LMCは、銀河系を周回している矮小銀河の1つで、南半球からしか観測できない。 もし太陽系の中心にあれば木星の軌道に達すると思われるWOH G64は、1970年代から天文学の研究対象となっており、旧約聖書に登場する巨大獣にちなんだ「ベヒモス星」の愛称で呼ばれている。 南米チリにある欧州南天天文台(ESO)の超大型望遠鏡VLTで構成する干渉計VLTIを用いた今回の最新観測では、恒星がガスと塵(固体微粒子)を吹き出しており、星の一生の終末期にあって超新星爆発が迫っているようであることがわかった。 ■卵形の繭 大仲は「星の近くを取り巻いている卵形の繭を発見した」として「これは超新星爆発が迫った死にかけの星からの猛烈な物質放出に関連している可能性があるため、ワクワクしている」と説明している。 研究チームは2005年と2007年にもWOH G64を観測していたが、VLTIの性能が向上される前だったため、WOH G64のクローズアップ画像は撮影できなかった。だが、先行観測の結果が、新たな知見を見出すのに極めて重要であることが判明した。論文の共同執筆者で、独マックスプランク電波天文学研究所の教授(天文学)を務めるゲルト・バイゲルトは「この恒星は過去10年間で著しい変化を起こしていることが、今回の研究で明らかになった。これにより、恒星の一生をリアルタイムで観察する、またとない機会がもたらされている」と指摘した。 ■極端な星 WOH G64は、この種の恒星の中で最も極端な星の1つだ。終末期の赤色超巨星は外層のガスと塵を放出するが、この過程は数千~数万年を要する可能性がある。この巨大な星は死の瀬戸際にあるのだろうか。恒星の減光と、予想外の卵形をした塵の繭は、そのことを示唆している。 WOH G64については、さらに多くのクローズアップ画像の撮影が計画されているが、天文学者は時間との闘いの中にいる。星が暗くなればなるほど、撮像がより難しくなるからだ。
Jamie Carter