矢樹純さん「血腐れ」インタビュー 家族のトラブルを軸にホラーとミステリを融合
イヤミスでも読後感は明るく
――ご出身は青森県だそうですが、生まれ育った土地と作風との関係は? どうなんでしょう。わたしが生まれたのは青森といっても歩いてイオンに行けるような、それなりに開けたところだったので、土俗的な風習に馴染みがあるわけではないんです。それよりはフィクションの影響が大きいですね。「爪穢し(けがし)」のネイルチップが何度捨てても戻ってくるという展開も、子どもの頃読んだホラーマンガを思い出しながら書きました。何度捨てても戻ってくる呪いのワンピースの話があって、それを現代風にアレンジするならネットで売られているネイルチップかなと。 ――確かに「骨煤(ほねずす)」では遺骨が黒くなるという怪現象が老いた父親の介護問題と、「声失せ」では神隠し伝説とビジネス上のトラブルが絡められるなど、因習ホラーでありながらしっかり現代性もありますよね。 わたし個人の感覚もそうですが、現代人が幽霊をそのまま受け入れるのは若干抵抗があると思います。不思議なことに遭遇したとしても、しばらくは常識的な対応をするんじゃないでしょうか。わたしはその心の揺れみたいなところも書きたい。現代の読者に共感してもらうために、そこは必要な部分かなと思います。 ――遺骨が黒くなるのはその人が地獄に落ちた証拠、という恐ろしい言い伝えは実在するのでしょうか。 いえ、これはオリジナルです。遺骨が煤けること自体は、実はそれほど珍しくないことらしいんですよ。大柄な人は燃えにくくて、骨が黒くなりやすいんです。それと昔どなたかの怪談で聞いた、霊能者に写真を見せたら「この人は地獄に落ちましたよ」と言われたというインパクトのある話が記憶に残っていて(笑)、それを組み合わせています。理屈を超えた怖さがありますよね、「地獄に落ちました」っていうフレーズは。 ――最終話「影祓え」も読み応えのある作品です。原因不明の高熱を出して入院している息子に付き添っている母親が、病室で真っ黒い影のようなものを目にする、そこにはある人の呪詛(じゅそ)が絡んでいて……。 自分で一番いやだなと思うのは「影祓え」ですね。主人公を追い詰められるだけ追い詰めたので、書いていてへとへとになってしまいました。ただ一冊通してずっと後味が悪いのも申し訳ないので、気分が晴れるような展開も含んでいます。これは今まで書いてきたイヤミス系の作品でも同じで、最後くらいは明るい気持ちで本を閉じてほしいんですよね。