矢樹純さん「血腐れ」インタビュー 家族のトラブルを軸にホラーとミステリを融合
昭和的な、じとっとした怖さ
――表題作の「血腐れ」は弟一家とキャンプ場にやってきた女性が、弟の言動に不審の念を抱くという物語。各エピソードそれぞれ、主人公の年齢や性格が異なっていますね。 一冊の中で主人公のキャラが被るのはよくないので、どこに住んでいて何歳くらいで、という属性から決めることが多いです。そこから「この年代ならこういう悩みを抱えているかな」と直面している問題を考えていく。幅広い世代の方に楽しんでもらいたいですし、短編集ではなるべく偏らずに、色んな人を書きたいと思っています。 ――物語が進展するにつれ、弟の秘められた部分が見えてくる。人間には誰しも裏の顔がある、というのはこの作品集に共通する視点ですね。 そこはミステリの仕掛けとして書いている部分が大きいです。意外性を生むためには、みんな裏の顔を持っていた方が面白いですから。ここまで人間の内面がぐちゃぐちゃしているとは、正直あまり思いたくありません(笑)。 ――では人間ドラマの部分には、実体験は反映されていない? どうしても滲んでしまう部分はありますよね。書いているうちに、以前腹を立てたことを思い出して、その気持ちが台詞に反映されたり。幸いわが家はそこまで大変な目に遭ったことがないんですが、同世代の友だちと話をすると結構すごいことが起きているご家庭もあります。わが家もわたしが知らないだけで、実はそうなっているかもしれない。そんな怖さはありますよね。 ――「血腐れ」では神社の石に血を注ぐと、嫌いな相手と別れられるという儀式が出てきます。こうした土俗的なモチーフもこの短編集の特色です。 自分が怖いと感じるのが、こうした土俗的な世界なんですね。昭和生まれの人間なので、じとっと湿った怖さの方が肌に合うんです。執筆中は担当編集さんが『図説日本呪術全書』みたいな分厚い資料を送ってくださって、もらったからには活用しなければと全編そういう要素を盛りこみました。書いたら書いたで「この時代のお寺はこうですよ」とさらに指摘が入るので、担当編集さんには助けられましたね。