裁判手続きをせずに書き込みを削除できる仕組みが必要――弁護士が語る“ネット上の誹謗中傷”の現状と課題
プロレスラーの木村花さんが亡くなってから2年が経った。この2年の間に、インターネット上の誹謗中傷やヘイトスピーチ、オンラインハラスメントに対する法律や世間の反応はどのように変わったのか。ネット上のヘイトスピーチを専門に扱う弁護士の宮下萌さんに、現状を聞いた。(聞き手:荻上チキ/TBSラジオ/Yahoo!ニュース Voice)
法は改正された。しかし、依然として高い「裁判」というハードル
――ネット上の誹謗中傷に対して、いまの世間の理解や反応をどう感じていますか? 宮下萌: ネット上の誹謗中傷に関してはこの2~3年で、かなり社会的に問題化されたと感じています。やはり、木村花さんの事件があって、その後国会も動き、いわゆる「プロバイダ責任制限法」が改正されるところまでこぎつけることができました。このことによって、法律上はネット誹謗中傷に対する削除請求や損害賠償請求などができるようになります。 しかし、「裁判をしやすくする」という目的に対しては、かなり技術的な改善のみの段階にあると感じています。 ――そもそも裁判をするために弁護士を雇うとなると、数十万から100万円程度の費用がかかります。費用の壁の前に断念する方もいらっしゃいますよね。 宮下萌: その通りです。費用だけでなく、まず、一般の方が弁護士に相談に行くまでがかなりハードルが高いと思うんですね。そして、弁護士に相談できたとしても、現行法でなかなか対応できないものや、文脈によっては名誉棄損とまでは言えないだろうというものもあり、断念される方もいます。 また、依頼者の方が何をしてほしいかによっても手続きが違ってきます。書き込みの削除だけでなく、刑事告訴までするとなると、まずプロバイダに記事削除をお願いする手続きを行い、さらに発信者情報の開示請求というもう1つのステップを踏まなければなりません。そこがなかなかしんどいです。仮に、発信者情報が開示できたとしても、プロバイダにログが残ってないこともあり、結局、無駄になってしまうこともあります。リスク、かかる費用を説明した上で、それでも裁判したいという決心をどれだけの人が持てるかというと、現状はかなり厳しいと思っています。