裁判手続きをせずに書き込みを削除できる仕組みが必要――弁護士が語る“ネット上の誹謗中傷”の現状と課題
DMなど、現行法では対応できないヘイトスピーチも
――誹謗中傷だけでなく、特定の人種などを侮辱するヘイトスピーチなど、違法になるかどうか判断が難しいため、対応が困難だという事例もありますか。 宮下萌: 例えばフェイクニュースを元にしたヘイトスピーチや、事実をかいつまんで発信して全てを知っているかのように見せかけているものなどは対応が難しいです。 また、SNSのDM(ダイレクトメッセージ)で送られてくるものを何とかしてほしいというご相談が多いのですが、内容的にヘイトスピーチにあたっていても、DMやメールは発信者情報開示の請求対象にならないんですね。 ――DMは対象にならないんですね。 宮下萌: DMは、不特定の人に見られるものではなく、直接のやりとりになるため、プロバイダ責任制限法の形式上、発信者情報開示の請求対象に入っていないんですね。しかし、ヘイトスピーチにあたるDMはかなり発信されており、「苦しいけれど、これは何とかならないのか」というご相談はよくいただいています。 実際、内容によってはオンラインハラスメントにあたる場合があると考えています。プロバイダ責任制限法の改正では、オンラインハラスメントに関する規制が網羅できていなかったと感じています。そこで、どういったものが日本の法的な文脈で規制可能なのか、どう定義できるかということを私自身は考えはじめています。 ――DMで人格が傷つけられたと感じる人も出てきそうですが、そこはいかがでしょうか。 宮下萌: 本当におっしゃる通りなのですが、現行法だとやっぱりなかなか何もできない状況です。執拗なものには「ストーカー規制法」を検討するという手もあるのですが、この法律は「恋愛感情を充足する」という目的がない場合は適用が難しいです。現状は、それ以外の法律で該当するものがないので、今後そこをきちんと対応できるような法的規制がやはり必要だと考えます。 ただ、ヘイトスピーチやオンラインハラスメントで侵害されるものは、本来、侮辱とか名誉毀損とはもっと違うところにあると思っています。ヘイトスピーチだったら人間の尊厳の侵害ですし、オンラインハラスメントだったら平穏な生活を侵害されるという、法律によって保護されるべき利益がそもそも違う。そこを踏まえない議論をしても、なかなか根本的な解決はできないだろうなと思っています。