快眠できないのはなぜ? 脳内物質「オレキシン」の働きに注目
オレキシンが原因の不眠症状、どう改善できるのか?
では、オレキシンの分泌が原因で生まれる不眠症状は、どのように改善すればよいのでしょうか。まず考えたいのは、就寝前にはオレキシンの分泌を促すような行動を避けるということです。久留米大学医学部の内村直尚教授が行った調査によると、不眠症状に悩む人の多くには、就寝前に特徴的な行動がみられたといいます。それは、テレビの視聴、飲酒、パソコンやスマートフォンの操作、ゲームといったもので、内村教授はいずれも「脳が休息したいときにも関わらず脳の働きを活性化させてしまうような行動だ」と指摘しているのです。 例えば、寝る直前までパソコンで仕事をしたり、スマートフォンで頭を使うパズルゲームをしたり、友人とSNSで会話をしたり、ニュースをはじめ多くの情報に触れたりすると、脳内ではオレキシンは活発に分泌され、身体は眠りたくても脳の働きはどんどん活発になってしまいます。よくスマホを操作しながら“寝落ち”してしまう人もいると思いますが、脳が活発な状態のまま眠りに落ちれば、必然的に眠りは浅くなってしまう可能性も高いと言えるでしょう。 加えて、就寝前に悩み事や考え事をしたりすることも、オレキシンの分泌を促して睡眠の妨げとなる場合があります。仕事やプライベートで不安や悩みがある場合や、対人関係でストレスを抱えている場合などには、寝る直前まで布団の中で色々なことを頭の中で考えてしまい、なかなか寝付けない人も多いのではないでしょうか。また、寝付けないからといってスマートフォンに手を伸ばしてゲームや動画視聴で気分を紛らそうとすると、更に脳を活性化させることになってしまい、悪循環に陥ってしまうのです。 不眠症状に悩んでいる人は、まずこうしたライフスタイルを見直し、眠る前はなるべく脳がリラックスできる状態を作ることが大切です。
寝る前の行動をチェックしてみよう 深刻な場合は医師に相談を
この点について内村教授は、「就寝時に携帯電話やスマートフォンの操作、ゲーム、飲酒、カフェイン摂取、喫煙、考えごとが習慣になっていないかという“脳の覚醒チェック”をして、生活習慣を改善することを勧めたい」と提言しています。忙しくストレスが多い現代人にとっては決して簡単なことではありませんが、不眠症状が深刻化して日常生活への影響が大きくなる前に、意識して脳の働きに“ブレーキ”を掛けてあげるような生活を心がける必要があるのです。ただし、もしも慢性的な不眠症状が改善されないような場合には、投薬による治療の必要性がある可能性もあるため、専門医に相談されることをお勧めします。最近ではこのオレキシンの働きを抑制する「オレキシン受容体拮抗薬」という薬も登場し、不眠症に対する治療方法も日々進歩しているのだそうです。 快眠が得られない場合には、翌朝にも眠気が取れなかったり、仕事や生活のパフォーマンスが低下してしまったりなど様々な影響が生まれてしまいます。加えて、不眠症状が深刻になると、生活習慣病やうつ病のリスクが高まるとも言われています。「十分な睡眠時間を確保すれば良い」ではなく、「どうやって質の良い深い睡眠をするか」という視点で生活を見直すことが、多忙な現代人のヘルスケアにとって、とても重要なことだと言えるのです。 “春眠暁を覚えず”ということわざがあるように、春は睡眠に適したシーズン。グッスリ眠る為にも、ぜひ自分自身の睡眠を見直してみてはいかがでしょうか。 (執筆:井口裕右/オフィス ライトフォーワン)