天文学、宇宙物理学においてスーパーコンピューターはどのように貢献してきたか?
国立天文台は2024年12月4日、天文学専用のスーパーコンピューター「アテルイIII」の運用を開始したと公表しました。アテルイIIIは、惑星の形成から宇宙の大規模構造の進化まで、さまざまな宇宙の謎に挑むことを目的としています。 国立天文台、新しい天文学専用スパコン「アテルイIII」の運用を開始 天文学や宇宙物理学では、スーパーコンピューターは観測データの解析やモデルの数値シミュレーションにおいて必要不可欠なツールとなりました。宇宙望遠鏡を打ち上げるためのロケットの軌道計算を含め、宇宙分野全体でスーパーコンピューターは重要な役割を果たしています。そこで、スーパーコンピューターの歴史や進化、宇宙分野への具体的な貢献をみていきましょう。
スーパーコンピューターの進化と天文学への応用
スーパーコンピューターの歴史は、1964年にシーモア・クレイ氏が開発した「CDC 6600」に始まるとされています。CDC 6600はクロック速度が100ナノ秒(クロック周波数10MHzに相当)と当時としては画期的な性能を誇りました。スーパーコンピューターの速度を表すには、1秒間に浮動小数点演算を実行できる回数を表す「フロップス」という指標が用いられますが、CDC 6600は3メガフロップスの性能をもっていました。アメリカ航空宇宙局(NASA)が1974年に公表した資料によると、CDC 6600はテキサス州のマクドナルド天文台とアポロ11号、14号、15号の反射鏡とのあいだで実行されたレーザー測距時の光子の検出に利用された模様です。 NASAが独自にスーパーコンピューターの開発に乗り出したのは1970年代であり、エイムズ研究センターの「Illiac-IV」や、ラングレー研究所の「CDC STAR-100」が登場しました。CDC STAR-100はベクトル方式(※1)としては初期のスーパーコンピューターであり、クレイ氏によって開発されています。NASAによると、こうしたスーパーコンピューターは星や銀河、ブラックホール、X線源、星間雲などの天体の進化を数値的に解析することに割り当てられていたようです。 ※1…ベクトルで表されるデータを1つの命令で処理できる計算機アーキテクチャのこと。CDC STAR-100は、ベクトルデータを扱える命令を実装していたという意味では最初のベクトル方式のスーパーコンピューターと呼べるが、商業的に成功したという意味では、STAR-100の後継モデルである「CRAY-1」(1976年)まで待たなければならない。 同時代には、ソ連(現ロシア)もまたスーパーコンピューターの開発を手掛けており、「BESM-6」がソビエト天文学データセンターで1968年から利用された模様です。日本で最初のスーパーコンピューターは、航空宇宙技術研究所(現在の宇宙航空研究開発機構)が富士通と共同開発したベクトル方式のスーパーコンピューター「FACOM230-75AP」であり、世界で初めて商業的に成功したとされるベクトル方式のスーパーコンピューター「CRAY-1」が開発された1年後の1977年に登場しています。